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Name: 肉の塊
Author: to_o_shake
Rating: 21/53
Created at: Sun Sep 30 2018
アイテム番号: SCP-1052-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル
SCP-1052-JPはサイト-81██に収容されています。SCP-1052-JPの食事、要求、カウンセリングなどはヒト型オブジェクト基本収容プロトコルに則って行われます。SCP-1052-JPの収容房および提供される物品に有機物は基本的には使用されません。SCP-1052-JPの狂暴化を防ぐため、SCP-1052-JPに関わる全ての実験はSCP-1052-JPの同意を得て行ってください。特にSCP-1052-JPが損傷を受ける、SCP-1052-JPが他実体に損傷を与える場合は詳細な説明を行ってください。SCP-1052-JPは実験への参加に拒否感を示すことが多分に予想されますが、SCP-1052-JPの意思を優先してください。SCP-1052-JPに職員および財団への不信感を与えることは今後の収容に多大な悪影響を及ぼします。
SCP-1052-JPの収容を継続して行うために肥大化したSCP-1052-JPを切除し、処分する必要があります。これは1年に1度、必ず行われることがSCP-1052-JPとの間に取り決められています。切除した部位は内側から破壊されない耐久度の金属製の箱に入れて密封し、可能な限り短時間で箱ごと熔解してください。
SCP-1052-JPの収容には独立した空調設備を使用した高気密の収容房が使用されます。またSCP-1052-JPの狂暴化に備え、液体窒素を使用した冷凍装置が設置されています。月に一度、装置のメンテナンスを行ってください。
説明
SCP-1052-JPは20██/█/██の時点で████kgの不定形の肉塊です。SCP-1052-JPには脳や神経が存在していないにも関わらず意思や感情を有しているように観察され、筋肉組織が存在していないにも関わらず動くことを可能としています。また目や耳などの器官は確認されていませんが、未知の手段により正確に外部を把握し、食事や呼吸を必要としているように振る舞います。SCP-1052-JPの摂食は物体を包み込むように行われますが、その分解、吸収のプロセスは不明です。SCP-1052-JPは有機物であるならばどのような物体でも吸収が可能なように観察され、摂食した物体の質量分、自身の質量を増大させます。SCP-1052-JPは発声器官が無いため発話は不可能ですが、日本語での筆記および五十音表を使用した文字による対話が可能です。
SCP-1052-JPは驚異的な回復能力を有しており、損傷は即座に修復され、分断された場合においても1つに統合することが可能です。分断されたSCP-1052-JPは全て同一の知能、記憶を有していることが確認されています。SCP-1052-JPを完全に終了させる方法は、高温での焼却、冷凍による細胞の破壊、強アルカリ性の水溶液などによる溶解など、回復能力を上回る損傷を与え続けることが有効であると判明しています。しかしながらSCP-1052-JPは自身の損傷や死亡する危険性を極端に忌避しています。そのような事態に遭遇したSCP-1052-JPは極めて狂暴になり、自身の安全の確保を優先して行動します。その行動はSCP-1052-JPの流動的な体質を利用した「濁流のような」と形容される暴力的なものです。SCP-1052-JPとの意思疎通が可能であることが判明する以前は、不用意な刺激による狂暴化および収容房の損傷、脱走が度々発生していました。
SCP-1052-JPは██県██市の██████大学病院から発見されました。発見のきっかけとなったのは、同病院から地元の警察に「数日の間に複数の医師が立て続けに行方不明になっている」という通報が行われたことでした。警察および病院に潜入したエージェントによる捜査が行われた結果、SCP-1052-JPが発見されました1。SCP-1052-JP確保の際に発生した人的被害および前述の行方不明の医師はカバーストーリー「極めて毒性の強い食中毒」により隠蔽されました。
補遺-1
以下は██████大学病院内から発見されたSCP-1052-JPに関係していると推測される手紙です。
20██年█月██日
███会
████████
サンプルの返却とご提案の共同研究について
その上で、このようにお答えしなければならないのは大変心苦しいことではございますが、ご提案の研究については賛同および協力を致しかねます。我々は確かにサンプルから生命の神秘を垣間見ました。しかしながら、サンプルは既に人間とは別個の生命体として確立しているように思われます。その点については██様と同意見です。しかし、協議の結果、我々はサンプルがたとえ人間由来であったとしても、既に人間ではないそれを人間に転用するべきではないとの結論に至りました。特に、サンプルを製造、量産する点については否定的な意見が多数、挙げられております。
重ねて申し上げることになりますが、人間に転用するのならば人間であるべきである、というのが我々の最終的な結論です。
██様のご期待に沿えないこと、何卒ご理解賜りたく存じます。しかしながら、もしお困りのことがございましたら、医学の発展、躍進を望む同士として、相談に応じることは可能かと思います。
末筆ながら、██様のご健勝を心よりお祈り申し上げます。
敬具
補遺-2
SCP-1052-JPはサイト-81██に移送された際に収容を突破し、サイト内に流れ込みましたが、収容違反から約█時間██分後、機動部隊█-█("█████████")██隊員によって収容されました。██隊員はSCP-1052-JPとの接触により、SCP-1052-JPの知能および知識は想定されていたよりも高度であり、文字による会話が可能であること、SCP-1052-JPは自身の損傷について過敏に反応することを報告しました。██隊員の発見により特別収容プロトコルは大幅に改定され、以降SCP-1052-JPの収容違反は大きく減少しました。
以下はSCP-1052-JP再収容の後に行われた██隊員へのインタビュー記録です。
対象: 機動部隊█-█("█████████")██隊員
インタビュアー: █博士
付記: このインタビューは収容違反1052-██の直後に行われました。収容違反1052-██において孤立した██隊員は意図せずSCP-1052-JPに接触しましたが、その後、彼の独断の指示によりSCP-1052-JPは再収容されました。また██隊員は収容方法についていくつかの提案を行いました。
このインタビューは孤立状態の██隊員およびSCP-1052-JPに何があったのか、そして収容方法について提案した意図、██隊員がSCP-1052-JPについて何を把握したのかを聴取するために行われました。<録音開始>
█博士: それではまず、収容違反の最中に何があったのか。そこから話してください。
██隊員: あの時、あの収容違反の時、俺が所属していた部隊は他の部隊と協力してあれを収容房まで追い込む手筈になっていました。
█博士: はい、把握しています。けれど失敗したのですよね。現場では何があったのですか? あるいは何か、失敗する原因のようなものがあったのですか?
██隊員: 何か…… いえ、あれはただ単純に俺たちが想定していたよりもデカかったんです。デカくなってて、支給された武器じゃ歯が立たなかったんです。といっても、その時はデカさなんて分からなかったんです。結局、廊下いっぱいまで広がっていましたから。肉の壁でした。奥行にどこまで詰まってるか分からない肉の壁でした。今なら分かります。あれは攻撃されてパニックを起こしてたんです。それで、あんなことに。
█博士: SCP-1052-JPがパニックですか。では、それからどうやってSCP-1052-JPに対処したのですか?
██隊員: どうやっても何も、撤退したんです。あの時、あの迫って来るあれにはどうしても踏み留まれなかった。撃とうが焼こうが止まりゃしない。押し返せもしないし、引きもしない。そうしてる間に仲間が、前の方から仲間が食われてく。それで撤退したんです。隊長が、隊長が最後に踏み止まって、火炎放射で、時間を稼いでいる間に。隊長は、最後に撤退を指示して [3秒沈黙] それで、俺たちは撤退しました。
█博士: しかし、そこで逃げたことであなたはSCP-1052-JPを収容できたのですよね。結果的には、ですが。逃げた先で何があったのですか?
██隊員: 逃げ、あ、いや、あぁ、はい、そうですね。あれは撤退なんてもんじゃありませんでした。もうバラバラで、その場に留まれなくて、それぞれが逃げ出してて、もう足止めどころか規律も保てない状態でした。
俺が逃げ切れたのは本当にただ単に運が良かっただけだと思います。いえ、結局は逃げきれてなかったんですけど。俺は、すみません、あの時は必死でどうやって逃げたのか覚えていないんです。ただ、たしか、鍵の開いてるところを手当たり次第に探していたような覚えがあります。もう、どこもかしこも封鎖されていて、それで、化学部門か医療部門か、どこかの薬品庫らしき場所に逃げ込みました。すみません、どこかは覚えていません。たしか、西棟あたりだったと思います。探せばどこの倉庫かすぐにわかると思います。珍しくオートでも電子でもない鍵のとこです。あ、いえ、薬品庫でそんな鍵のところは……ひょっとしたら資料保管庫だったんでしょうか。すみません、覚えてないんです。
俺は、その、装備も無線も落としてしまいましたし、それじゃあ前線に戻っても役に立たないし、いや、そもそも戦って勝ち目のあるようなものじゃないし、そもそも効いてるような感じじゃなかったし、それで、えっと、それで。
█博士: 明確にお願いします。
██隊員: そこで、収容違反が終結するのを待っていました。その、えっと [3秒沈黙] 隠れていました。
█博士: そうですか。では、どうやってSCP-1052-JPと接触したのですか?
██隊員: あれが、あれが入ってきたんです。俺が隠れてたところに。は、ははっ、ねぇ、あれはどうやって入ってきたと思います? ドアをぶち破って? 隙間から染み出して? 違うんです、あれは、普通にドアを開けて入って来たんです。いえ、普通じゃありませんでした。ガチャガチャってノブを回す音がして。誰かが逃げ込もうとしてるのかと。それなら、開けないとと思って、見たら、開かれたところからいっぱいにあれが溢れてきたんです。俺は鍵をかけていました。内鍵をかけていたんです。あれはドアの通風孔から染み出してきて鍵を開けてたんです。しゅるしゅると。それから入ってきてたんです。
█博士: SCP-1052-JPに知能がある可能性は以前から指摘されていましたが、ドアを開けたのですか。内鍵を。なるほど。
██隊員: はい、そうです、そうなんです。あれには知能がある。あれは、あれのことは報告書の上では知ってました。知りました。その時に。俺は、その時に食われて終わるかと思ってたんです。部屋いっぱいに、あれが、あれが膨れ上がって。あれに取り込まれて、他の、勇敢だった他の仲間みたいに。
█博士: けれど、あなたは助かった。
██隊員: えぇ、そうです。俺は、食われなかった。あれは、俺は、あれに [4秒沈黙] あれに、命乞いをしたんです。
█博士: 命乞いを? 聞いたのですか? SCP-1052-JPが?
██隊員: 信じられます? ずりずり、ずりずり、這いずってきたあれが、俺が助けを求めたら、ぴたっと止まって、細い肉の蔦みたいな肉を伸ばして、俺の、俺の、俺の頭に。俺の頭に、肉が。
█博士: はい?
██隊員: 防護メットなんて被ってなくて、頭に、頭に直にあれの、肉が、べったり、柔らかい、噛み切れない脂身みたいなのが、べったりと。肉の感触が、頭に、降りてきて。だらだら、乾いた、水気のない肉片が顔に。声を、叫べば、できなくて、く、食われ、とけ、溶けたのかと。頭が、頭に、どろどろと。
█博士: ██隊員? 大丈夫ですか?
██隊員: いえ、えぇ、いえ、大丈夫です。
[深呼吸]
大丈夫。あれは、うん、大丈夫です。あれは、たぶん、すごく短い間だったんだと思う。たぶん。あれは、数分もなかったと思う。あれは、あれは、なんだった、あれは、頭を、撫でたんでしょうか。わからないんです。俺から手を離したら、俺のいるスペースだけ開けて部屋に納まったんだと思う。たぶん、あれも、俺みたいに逃げ込んできたんだと思う。たぶん。あれは、はい、いいえ、はい、逃げてきてたんです。
█博士: すみません。少し遮ってしまいますが、あなたは先ほどからSCP-1052-JPをあれとしか呼びませんね? 何か理由があるならお聞きしても?
██隊員: あれは、いや、SCP-1052-JPは、えっと、すみません、このインタビューの間だけでもいいんです、俺が呼べるように呼ばせてくれませんか。わかりません。いえ、わかってますけど、あれを、呼ぶのにも思い起こすのにも、すごく、抵抗があるんです。お願いです。それから、収容方法が確立されて俺が必要なくなったら記憶処理もお願いします。あれは、すみません、無理です。無理なんです。お願いします。
█博士: そうですか。それであなたが話しやすいのなら。それから、記憶処理についてはインタビューが全て終了してからの検討になるでしょう。
少し休憩しましょうか。収容違反が終結した直後ですし、あなたも落ち着いていないのでしょう。何か飲み物でも用意しましょう。
<録音中断>
終了報告書: ██隊員の精神面に不安定さはインタビューの直前から観察されていました。原因はSCP-1052-JPとの戦闘および長時間の接触によるストレスであると推測されています。また今後のインタビューは██隊員の様子を見て適宜、休憩を行い、必要であれば日を置いて改めて行われます。
対象: 機動部隊█-█("█████████")██隊員
インタビュアー: █博士
付記: 前回のインタビューの中断から30分の休憩の後に再開されました。
<録音再開>
█博士: では続きをお願いします。そうですね、倉庫に逃げ込んでから、SCP-1052-JPと接触して何があったのかをお願いします。
██隊員: せ、接触、いえ、はい、大丈夫です。あれが入ってきてから、いえ [3秒沈黙] えっと、しばらくは何も起こりませんでした。あれは、しばらくは静かでした。その、蛍光灯は見えなかったんです。その時は。覆われていて暗くて。
俺は、俺の方からも何か行動を起こすことはしませんでした。怖かったんです。何か声を出したり動いたりしたら、あれが襲ってくるかもしれないって。そんな風に考えてしまって。何か行動を起こすなんてとても考えることができなかったんです。だって、周りは暗かったんです。肉の壁がどこにあるのかなんて見えなかった。その時は、その中に何があるかも見えなかった。けど、周りは全部あれで、逃げ場なんてもうどこにもなくて、出口はあれの向こうで、少しでも動いたら、周りは全部、肉の壁で、ぐっと、あれが握れば、俺は。
[深呼吸]
いいえ、はい。大丈夫です。けれど、あれは、動いていたんです。目が慣れてしまったんです。あれを透かして、薄く、蛍光灯が、光が。見えてしまったんです。
█博士: 何を見たのですか?
██隊員: ヒトが、影が、あれの中に。暗いのはあれのせいじゃなかった。あれの中に、ヒトが、隙間から、光が、透けていたんです。肉が溶けて、手が肋骨が、銃が、あれの中に詰まっていて、あれは、ゆっくり、動いていたんです。ゆらゆら、波打って、中身をかき混ぜて、あれの中で、それが漂って、泳いでるみたいで、溶けていて。ばらばらの。
いいえ、いえ。大丈夫です。まだ、休憩はいいです。大丈夫。話せます。[5秒沈黙] えっと、それから、しばらく、しばらくは、どちらも動きませんでした。先に動いたのはあれの方でした。あれは、あれは。
[██隊員が指で机を叩く。3回、1回、1回、1回、3回]
█博士: それはなんです?
██隊員: あれが床を叩いてたんです。細い肉の手で。俺の方に、狭いのに、少しづつ肉の手を伸ばしながら、ぺちぺちぺち、ぺち、ぺち、ぺち、ぺちぺちぺち。あれは床を叩きながら伸ばしてきて、俺の方に。俺は、あれは、俺が応えるのを待ってたんだと、そう思います。俺が応えなきゃ、俺が喋らなきゃ、あれは俺を食ってたんじゃないかと、いえ、いいえ、憶測です。はい。えぇ、大丈夫です。
それはS.O.Sか、って聞いたら、1回、ぺち [指で机を叩く]。 助けを求めてるのか、って聞いたら、もう1回、ぺち [手で机を叩く]。そのぺちはイエスという意味かと聞いたら、また [机を叩く]。
█博士: それは。
██隊員: あれは、あれは話せるんです。声は、会話はできないけど、理解できるし、知ってるんです。あれは、あれは、話せるんです。話せるんですよ。話せたんですよ。
█博士: 会話能力がある、と。なるほど。あなたはどうやってSCP-1052-JPと話を続けたのですか?
██隊員: あれは [沈黙]
█博士: ██隊員?
██隊員: あ、いいえ、大丈夫です。ひらがなです。
█博士: はい? ひらがな?
██隊員: あれは、あれは棚のガラス戸を壊して、ばりっと、その破片で床に、ひらがなを刻んだんです。いえ、壊したのは見てません。音しか聞いてません。でも、あれの中からガラス片が出てきたんです。それで床に、文字を。その表を探せば、俺たちが隠れていた場所はすぐに見つかるかと思います。文字で、話を。
█博士: SCP-1052-JPは文字も理解していた。それは新発見ですね。そうして、あなたはSCP-1052-JPと何を話したんですか?
[沈黙]
█博士: ██隊員? 大丈夫ですか? インタビューを中断しますか?
██隊員: 助けて欲しい。
█博士: はい。何が必要でしょう? 薬を出しましょうか?
██隊員: いいえ、違うんです。俺じゃない。あれです。あれが言ったんです。助けてって。訳が、訳が分からない。なんで、なんで、あれが助けを求めるんだ。助けて欲しいのはこっちだ。閉じ込められて、あんなのに。それなのに、なんで助けて欲しい、なんだ。なんなんだあれは。
█博士: SCP-1052-JPが助けを求めたということですか? いったい何から?
██隊員: 痛いことをしないで。怖いことをしないで。殺さないで。外に出して。自由にして。助けて。解放して。だいたいそんなようなことを延々と、ぺたぺたと。俺は、俺はあれが分からない……。
あれは、俺たちを恐れてたんです。どうして? なんで? 信じられます? 散々、俺らの仲間を食い散らかして、暴れまわって、今ですら腹ん中に蓄えこんでるのに、恐れるなんて、そんなの、あまりにも。あれは、あまりにも。
[██隊員は頭を抱えて机に伏せる]
わからないんです。あれは、中の、あれは、それなのに。わかってください。わからないんです。
█博士: ██隊員。あなたは少々、その、混乱しているようです。やはり一度、薬を処方しましょう。それからまた話を聞かせてください。
<録音中断>
対象: 機動部隊█-█("█████████")██隊員
インタビュアー: █博士
付記: 前回のインタビューの中断から1時間後に行われました。また██隊員には精神安定剤が処方されています。
<録音再開>
█博士: さて、では始めましょう。そうですね、どうやってSCP-1052-JPを収容したかを話してください。それから、もし話すのが辛いようでしたら飛ばしてもらっても構いません。また時間を置いて、落ち着いた時に話してください。
██隊員: はい、ありがとうございます。すみませんでした。もう大丈夫です。全部話せると思います。
えっと、あれと話せることが分かったところまで話したと思います。なので、あれに収容房に戻って欲しいと伝えました。傷付きたくないなら収容房に戻って欲しい、大人しくしているなら痛いことはしない。それでもあれは信じませんでした。そりゃそうでしょう? 耐久実験で切り刻まれたりレーザでぶった切られたり、そんな場所から逃げ出そうとしたら撃たれたり焼かれたり、そんな場所に誰が戻りたいと思います? 俺も報告書でしか知りませんけど、あれにとって、収容はかなりキツいものだったんじゃないかと思います。それに、その、俺もその時は冷静だったとは言えない状態だったので、信用しにくかったと思います。きちんと話せていたかも不安ですし。今も、先ほども。
あれは話せるんです。話せたんです。あれの [3秒沈黙] 少なくとも、あれの認識では俺たちは言葉の通じる相手だったんです。そんな相手に収容されて実験されて、いえ、話が逸れました。だから、まず、誤解を解いていかなければなりませんでした。そうして、なんとかあれを説得したんです。説得できたんでしょうか。収容房に戻ってもらうようには交渉したつもりです。
そこからはご存知かと思います。無線で外に連絡をしました。オブジェクトと一緒にいること、オブジェクトとは会話ができたこと、収容の協力を得ることができたこと、収容房まで案内して欲しいこと。それから、あれが聞いていましたから、収容に気を付けて欲しいこと、損傷を与えることが収容違反に繋がること、それらを伝えて、外に出て、再収容に至りました。
以上が再収容までの大まかな流れです。あの、俺は話せてましたか? 休憩前の時の内容は大丈夫でしょうか?
█博士: そうですね。インタビューは何度か行う予定ですので今は大丈夫ですよ。
あなたが出した指示の、職員の退避とSCP-1052-JPの収容に立ち会う職員の武装解除もSCP-1052-JPを容易に収容するための一環ということでよろしいですか?
██隊員: はい。あれが武器を視認して、それが刺激になったら収容どころじゃなくなりますから。
█博士: あなたは再収容の指示を出すにあたって、SCP-1052-JPを収容する最後のチャンスだ、と何度も言っていたようですが、それも何か確信があったのですか?
██隊員: いいえ。本当に申し訳ないことだと思いますが、あれは、ただ急かしただけなんです。俺は、一刻も早く、あれから逃げ出したかったんです。耐えられなかったんです。申し訳ありませんでした。
█博士: そうですか。しかし武装解除は職員を危機に [2秒沈黙] 少々待ってください。あなたは先ほど無線機を落としたと言っていませんでしたか? どうやって再収容の指示を?
██隊員: 無線は、無線機は、な、中から出てきたんです。あれの中から。外に連絡する方法を、そのために外に出たいとあれに言ったら、あれの中から。███のものでした。爪の、癖の跡のある██の無線機が。あいつは、あれは、すぐそこで、俺がまだ戦っていたら。
[深呼吸]
いえ、大丈夫です。あれにとって俺は人質のようなものだったんでしょう。だから拘束しておきたかったんだと思います。武装解除についてはあれの要求でしたし、俺も必要だと思ったんです。 [3秒沈黙] あの、そういえば、俺たちが隠れていた場所って知っていますよね? たしか、何かしらの部隊が来たはずです。俺が、俺がまだあれと、話してる最中のことでした。
█博士: 少々待ってください。[資料を確認する] あぁ、これですね。行方をくらましたSCP-1052-JPの捜索にSCP-1052-JPが取り込んだと思われる職員の [沈黙] あ、えっと、位置を割り出して部隊が [沈黙]
██隊員: その [沈黙] そういうことです。鍵を開ける音がして、肉越しにくぐもった声が聞こえました。耳を塞いで、目を閉じて、見ないフリをしました。それでも、肉の焦げるにおいがして、そういうことです。
刺激したくなかったんです。外に出たら、もう、また手が付けられなくなる。もう、話を聞いてもらえなくなる。そうしたら、またあれは脱走しようとする。ねぇ、あれはまだ、まだマシな部類です。話が通じる部類です。だから、もう、そっとしておいてください。切ったり刻んだりしないでください。廃棄物処理に使ったり、食えるかどうか試したり、そんなの必要ですか? もう、そっとしてあげてください。いえ、あれを外に出さないでください。収容してください。もう、あれにもこっちにも犠牲は不要でしょう?
█博士: はい? 廃棄物処理? 食え、えっと? なんですか、それは?
██隊員: あれがされた実験だそうです。あれの言葉を信じるなら。聞いてみてください。
█博士: そんな記述はどこにも…… いえ、そうですね、SCP-1052-JPのインタビューも考えなければならないでしょう。あなたの所見ではどうですか? SCP-1052-JPはインタビューに応えてくれると思いますか?
██隊員: それで今後の扱いが変わるのなら、きっと。まだ、大丈夫だと思います。まだ、話はできましたから。
█博士: そうですか。ところで、あなたはだいぶ落ち着いたようですね。気分の方は大丈夫ですか? そろそろ今回のインタビューは終わりにしようと思いますが。
██隊員: 落ち着いて、見えますか? なら良かった。あの、おかしなことを言いますが。
█博士: なんでしょう?
██隊員: あの、あれは [沈黙] あれは、いえ、SC……あの、あれは、ヒトです。おそらくは。
█博士: はい?
██隊員: ヒトです。人間です。あるいはヒトだったものです。俺が、あれと話した限り、あれは、たぶん、あれの中身はヒトです。名前もありました。記憶もありました。あれは自分が誰なのか話しましたし、住んでた場所も県も、親の名前も誕生日も、何もかも話しました。あれは、ヒトのような何かです。あれは、いえ、けれど、あれは、たぶん、ヒトです。もしくはヒトだと思い込んでる何かです。そうであって欲しい。あれがヒトだとは思いたくない。けれど、あれは、ヒトです。
もし、あれにインタビューする時は、その、人型実体として扱ってみてください。たぶん、その方がスムーズにいくと思います。いえ、これは俺の所見なので、実際にそうなのかはわかりませんけど、所見なので、そんな気がすると俺が言ったってだけの意味で受け取ってください。あの、それから、俺は記憶処理をお願いしましたよね? それと、もう一つお願いがあります。
█博士: なんでしょう?
██隊員: 精神汚染の鑑定をお願いします。俺は、あれがヒトに見えるんです。あれは肉の塊です。透かして中も見ました。骨も内臓もない。ヒトらしい形でもない。あれの中から出てくるのも見ました。でも、あれはヒトなんです。もう、俺にはそうとしか見えないんです。あれは、ヒトかもしれないものです。
█博士: そう、ですか。
<録音終了>
終了報告書: SCP-1052-JPに精神に異常を与える特性は確認されていません。██隊員が訴えた異常は過度のストレスによるものであると推定されています。
補遺-3
SCP-1052-JPへのインタビューにより、SCP-1052-JPは19██年██月██から19██年██月█日まで██████大学病院に入院していた██ ███氏の記憶を有しており、「病院に拉致された」と認識していることが判明しています。また自身の身体について「入院中に気付いたら変わっていた」、「医者に何かをされたのかもしれない」と主張しています。インタビューを元に再調査が行われ、SCP-1052-JPが主張する記憶は██ ███氏の来歴と一致することが確認されました。またSCP-1052-JPと██ ███氏の親族のDNAは高い確率で血縁関係であると示されています。病院の記録によると██ ███氏は末期の肝臓癌によって入院中に死亡しています。██ ███氏の遺骨を調査した結果、頭部のみ██ ███氏のものであると確認されました。