SCP-1905-JP : 神はサイコロを．．．

SCP-1905-JPは197█年に継続的な観測によって判明した、GPS衛星搭載のセシウム原子時計の異常なずれによって発見されました。財団は当時アメリカ合衆国政府の協力の下GPSの試験運用を行っていたため、一般相対性理論で説明できない衛星の時計のずれが周期的に発生する現象にいち早く気づきました。財団の宇宙航空研究部門の天体物理学者であるカウフマン博士による解析で準同期軌道上に異常領域があることが判明し、有人探査機による現地調査が実行されました。

探査ログ1905-JP-001

対象: SCP-1905-JP

探索者: エージェント・██████（技術担当）、エージェント・██（パイロット）

探査前情報: 探査船SCPSS-1905-JP"アルベルト"はスクラントン現実錨(SRA)による現実性保持機能、SCP-████-JP由来の重力場コントロールによる座標固定システム、[編集済]を応用した空間曲率測定器を搭載し、異常範囲の解析と空間内部の異常現象の解析を目的としていました。これらの装置を運用するため、動力には[編集済]式核融合炉が採用されています。198█/██/██にGPS衛星の打ち上げに偽装して軌道投入を行い、翌日に観測ポイントに到達しました。以下は観測開始時からの作戦司令部との交信記録です。

エージェント・██: HQ、こちら探査チーム。ポイントαに到着しました。

オペレーター: 探査チーム、こちらHQ。こちらからの測位でも問題はありません。測定器を用いた異常空間範囲の測定を開始してください。

探査チームは測定を開始。30分後測定結果が司令部に送られ、プロジェクト責任者のカウフマン博士がそれを確認しました。

カウフマン博士: ほぼ半球状の領域か、球状の領域を想定していた分これは予想より巨大な異常領域だな。エージェント・██████、解析中目視で確認できる異常等は存在したか？

エージェント・██████: 特にありません。ただ、現在行ってる二回目の計測結果を見る限り、こいつはやっぱり少しずつ大きくなってるみたいですよ。

カウフマン博士: 解析結果の誤差と思いたかったが、やはり大きくなるタイプの異常だったか。しかしいまのところ、単なる純ユークリッド空間がそこにあるという事実以外は目立った異常がないというのは幸いだ。測定が終わり次第、領域内部での実験フェイズに移行する。

2回の解析により空間の拡大が確認されました。その後、SCP-1905-JP-A領域での実験のため探査船は移動を開始しました。この際、ポイントαとSCP-1905-JP-Aの位置関係上偶発的に当時知られていなかったSCP-1905-JP-B領域を通過しました。

エージェント・██: HQ、異常事態発生。ヒューム測定器からの信号が突然断絶しました。

カウフマン博士: これは計器の機能停止だな。SRAの有効範囲外にある以上、この東半球も何らかの異常領域かも知れん。

オペレーター: エージェント・██、移動速度の低下8が確認されました。速度を規定値まで戻してください。

エージェント・██: 俺は何もしてませ・・・。まずい、核融合炉の出力が上がりすぎてる。オートパイロットで負荷がかかりすぎてるんだ。

エージェント・██はマニュアル航行に切り替え、エンジンの緊急停止を行いました。また、動力炉の冷却のため予備電源に切り替えを行いました。この切り替えの際、SCPSS-1905-JPは5秒間電源停止状態にありました。

オペレーター: 再起動を確認。装置に異常がないか確認してください。

エージェント・██: 生命維持装置の動作を確認。航行システムのチェックは・・・。まずい、動かない。

エージェント・██████: おいSRAが再起動してないぞ。

カウフマン博士: これは・・・。エージェント・██、核融合炉の運転を再開してみてくれ。

エージェント・██: まだ冷却が十分では・・・。とりあえず動かしてみます。

エージェント・██により核融合炉の再起動が行われるが、[編集済]反応が発生せず点火条件を満たさない。

エージェント・██████: まずい、予備電源が80%を切ってる。このままだとあと30分持つかどうか・・・。

オペレーター: 落ち着いてください、現在救助のため予備艇がそちらに向かっています。

エージェント・██: いや、もういい。間に合わないだろうし、こっちに来ても多分二の舞いになるだけだ。財団のエージェントとしてこのくらいの覚悟はしてるつもりさ。

この後エージェント・██████は取り乱すが、エージェント・██に諭され落ち着きを取り戻しました。電源喪失までの間、二人のエージェントの遺言と家族へのメッセージが録音されました。

エージェント・██: 博士、この事件は多分詳細に分析されるだろうし、後になれば分かることだと思うんですがね。

カウフマン博士: ・・・何だね？

エージェント・██: 俺も昔研究者を目指したことがあるんで、だいたい分かるんですよ。多分ここでは、神はサイコロを振らない9んですね。

この直後即効性の神経ガスによる安楽死が行われ、二名のエージェントは息を引き取りました。

<録音終了>

終了報告書: SCPSS-1905-JPと二人のエージェントの遺体は、予備艇に回収された後詳細に分析されました。各種装置に故障箇所が存在しなかった事実及び探査任務内のインシデントの解析の結果、SCP-1905-JPの異常性について予測が立てられ、以降の探査計画の指針となりました。

SCP-1905-JPが地球を飲み込んだとしても、日常生活レベルでの異常性を感じることは難しいだろう。SCP-1905-JP-B領域内での半導体技術の飛躍的な発展10が見られるようになったところで、その程度の異常性を収容するのは容易い。しかし常に人類を先導し、現代科学の遥か先を行く異常存在たちと対峙してきた我々財団にとっては違う。我々の機密情報が人類が持ちうる究極の機密であるのは量子暗号技術に保証されており、量子コンピュータ技術によって解読した暗号を元に秘匿された異常物品を見つけることが出来る。量子力学における[編集済]の原理により、nPDN装置により霊体的な異常存在を現実に固着できる。SCP-███-JP由来の重力場制御技術は、幾つもの時空間異常の封じ込めに寄与している。多くの現実改変能力者たちを抑えこむことができるSRAの基礎技術は、[編集済]による重力場[編集済]及び、仮想粒子生成における[編集済]理論によって成り立っている。これらの技術による異常性の封じ込めが不可能となったとき、代替手段を持たぬ我々は多くのオブジェクトの収容違反を許すだろう。これによって予想され得る損害は、対象となる多くのオブジェクトの危険性も相まって、もはや強制的な無力化を辞さない手段を取ってしても我々の手に負えるものではないとの見積りがなされている。そしてこれは収容違反が更なる収容違反を呼ぶようなXK-世界終焉シナリオの発生を意味しており、SCP-1905-JPの無力化、あるいは拡大阻止のためのあらゆる手段を講じる必要がある。—O5-█

SCP-1905-JPの封じ込めの試みは、財団が持つ多くの対異常存在技術の無力化もあって失敗しました。SRAを起動状態でSCP-1905-JPに突入させることで周囲1█.██mの空間への異常性の浸透を防ぐことが可能ですが、一度シャットダウンすると再起動が不可能になること、SCP-1905-JPを完全に覆うだけのSRAを生産することが不可能であることからこれによる封じ込めは不可能です。このため引き続きSCP-1905-JPに対する有人探査を行い拡大阻止の手段を模索すると同時に、地表への到達がやむなしとなった場合に備えて収容違反が予測されるオブジェクトの終了、異常存在の拡散が起きた場合の新世界秩序の構築について手段を模索する"B.B.計画"11が進行中です。代替プロジェクトの発足により、B.B.計画は現在凍結中です。

1995年頃、SCP-1905-JPの膨張速度が段階的に█.██km/日まで低下するという現象が確認されました。この現象は調査の結果、素粒子物理学における第2次ストリング革命と呼ばれるムーブメントにおいて、関連する超弦理論についての論文12が発表される度に起きていたことが確認されました。その後の財団基礎物理学研究部門による幾つかの一般向け論文発表13と観測により、量子重力理論についての革新的な研究が発表される毎に膨張速度が低下していくというSCP-1905-JPの新たな性質が証明されました。このことから量子重力理論の完成、すなわち一般相対性理論的上の重力場の理論の量子力学上での記述についての正確な理論が一般向けに公表された時、SCP-1905-JPは膨張を停止、あるいは異常性を消失するとの説が現在有力視されています。これを受け、O5評議会の承認の下プリンストン計画が実行されました。

プリンストン計画 概要

SCP-1905-JPの地表到達を阻止するため、財団外部を含めた物理学者による量子重力理論の完成を目指す。

財団基礎物理学研究部門内に本プロジェクトの専門部局を設置し、████部局長をはじめ1█人の上席研究員を運営委員会として任命する。委員会は部局所属の研究者の研究計画を監査し、外部発表の承認を行う。また、委員会は世界各国の関連する大学・研究機関の研究進捗状況を調査するチームを選抜し、調査結果から必要に応じた助言、資金援助を行う権限を有する。█████大学、███████研究所をはじめとする研究機関系財団フロントは、これら外部干渉を行う窓口とする。

上記の運営委員会に加え、財団基礎物理学研究部門所属の理論物理学者███名を専属研究員として任命する。また、外部機関に対する調査チームにはそれ以外の財団所属研究者を必要に応じて割り当て、通常の研究業務に加えて論文の精査などを行う。調査チームにはまた博士号を持つフィールドエージェントを選抜し、各外部機関に潜伏させることでより詳細な研究状況の把握に努める。

財団基礎物理学研究部門には、本プロジェクト用に追加予算が割り当てられる。この予算はO5評議会の方針の下運営委員会が直接配分を行う。

— 上席研究員 ██

まずは君が人類最高の頭脳を持つ一人として、新たな上席研究員に選ばれたことを祝福しよう。君には財団基礎物理学部門が持つすべての情報を知る権利が与えられる。これは同時に、SCP-1905-JPという脅威に対して本当の意味で向き合うということに他ならない。君は真実を知る必要があるのだ。

気づいていると思うが、プリンストン計画は単純な研究促進計画ではない。あらゆる研究に監査を入れるのは、その研究結果を取捨選択し、財団の下で情報を管理する必要があるからだ。なぜそのような事をしなければならないのか、それを理解するにはこの報告書を読む必要がある。これから計画を運営する君には、既にその権限が与えられている。

アイテム番号: SCP-████-JP-EX

オブジェクトクラス: Explained/Thaumiel

特別収容プロトコル: SCP-████-JP-EXについての資料は、財団中央司令部のサーバーにレベル6情報プロテクトをかけた状態で保存されます。SCP-████-JP-EXについてのあらゆる情報はセキュリティクリアランスレベル4以上の財団所属研究員及びO5評議会にのみ公開されます。SCP-████-JP-EXが関わるあらゆる基礎技術は情報を持つ研究員のみで研究開発を行い、応用の際には核心部分を秘匿したブラックボックスとして各種開発部門に提示されます。

説明: SCP-████-JP-EXは、一般的に量子重力理論と呼ばれる量子力学と一般相対性理論を統括して記述することが可能な物理理論です。この理論から導かれる南方-ハルトマン時空方程式により、時空間における重力と量子の振る舞いについてのそれまで未知であった性質が判明しました。これによりSRAの動作原理のうちブラックボックスであったスクラントン効果の論理的説明をはじめ、フェルミオン固着化原理の発見、ベレゾフスキー重力場制御法の発明などがなされ、財団はこれまで制御不能であった多くの異常を収容することができるようになりました。SCP-████-JP-EXには、その理論由来の技術によって成り立つあらゆる装置に対して、リバースエンジニアリングによる理論の再発見が不可能であることが立証されています。この性質により現在SCP-████-JP-EXは財団のみが独占する情報であり、多くのオブジェクトの特別収容プロトコルが長期にわたって安定維持可能である大きな要因となっています。このため、本来自然界の法則であり普遍的な原理であるSCP-████-JP-EXに関する情報は財団上層部の管理の下、異常存在への対抗手段としてThaumielクラスオブジェクトとして定義され収容されています。

補遺: SCP-████-JP-EXの発見は、196█年のSCP-███-JP（このオブジェクトは197█/██/██に異常性を喪失しており、判明の切欠となった実験の再現は現在不可能です）の研究における偶発的なものです。実験担当者であった南方研究員は、当時財団基礎物理学研究部門の上席研究員であったハルトマン博士の協力の下理論を完成させました。当初は財団内報での発表の後段階的に一般向けの情報公開を行う予定でしたが、その有用性に気づいたO5評議会によって財団内報での発表直前の段階での差し止めがかかり、Thaumielクラスオブジェクト指定が決まりました。

もう理解していると思うが、SCP-████-JP-EXの公開こそがSCP-1905-JPの拡大を止める、あるいは無力化する現状での唯一の手段である。そしてこの情報は財団が現在知り得る世界についての真理であり、同時に我々が理解し得る世界の限界である。もしこの理論が公になれば、財団に敵対する数々の組織は容易く我々の檻を破るための手段を得るであろう。その行き着く先はSCP-1905-JPの齎す終局と変りなく、故に我々に残された道は一つしかない。SCP-████-JP-EXに漸近する理論の段階的な公開によるSCP-1905-JPの拡大阻止を行うことで時間を稼ぎつつ、SCP-████-JP-EX由来の技術を利用せずあらゆる異常を封じ込める手段を確立することである。これまで偶発的に得られたSCP-████-JP-EXというジョーカーを用いて世界を守ってきたが、その安寧に現を抜かしていた我々は進歩を怠った故このような岐路に立たされたといえる。我々は常に人類が未知に立ち向かう為の先導者として、それを解き明かす光明を生み出さなければならないのだ。

人類は叡智の歩みを止めてはならない。 —O5-1