SCP-2585-JP : 延命の檻

Information

Name: 延命の檻
Author: leaflet
Rating: 104/124
Created at: Sat Aug 02 2025
アイテム番号: SCP-2585-JP
オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル

SCP-2585-JPは室温を25℃に設定した標準収容ユニットに保管します。SCP-2585-JPの体表温は体温連続モニタリングシステムによって通常の体表温サイクルからの逸脱がないかを監視します。また、毎日15時にSCP-2585-JPの全身に外傷がないことを確認した後、右手背を3cm切開します。処置後から23時まではこの切創に変化がないことを確認し、23時から翌朝7時にかけてはSCP-2585-JPの異常性が通常通り発生することを観察します。

説明

SCP-2585-JPは日本人成人男性、眉川 █氏の死体です。SCP-2585-JPは1日を通じて特定のサイクルに従った変化を示します。これらの変化を比較・記述しやすくするため、7時時点の状態を基準状態と定めます。基準状態のSCP-2585-JPは皮膚のわずかな乾燥と顎関節の硬直、および背部の死斑が見られ、体表温は33.8℃です。これは死後1~2時間が経過した死体に相当する状態です。SCP-2585-JPは7時の基準状態から、通常の死体と同様に劣化していきます。目立った変化としては体温低下と死後硬直の進行が挙げられます。23時以降は逆にこれらの変化が巻き戻されていき、7時に必ず基準状態に戻ります。以後、再び同様の変化を繰り返します。

SCP-2585-JPが物理的に損傷を受けた場合、残存する組織を起点として23時から徐々に復元され、7時に基準状態に戻ります。この復元過程は通常の細胞増殖による治癒とは異なり、時間が逆行するような挙動を示します。この復元は組織単位に留まらず、摘出された内臓や切断された四肢のような大規模な欠損についても同様に再構成されることが確認されています。ただし、大規模な欠損の際には基準状態への復帰が例外的に7時以降になるケースが確認されており、SCP-2585-JPの異常性が無制限ではないことを示唆しています。SCP-2585-JPが損傷を受けた際に出血は起らず、損傷面の血液の凝固も発生しません。一方で、切除された組織はSCP-2585-JP本体とは異なり出血が起こり、非異常のものと同じように腐敗が進行しはじめます。

以上のことから、SCP-2585-JPの異常性はある種の時空間的異常であると推定されています。

発見時報告書

SCP-2585-JPは北海道十勝郡██町内の一戸建て住宅にて発見されました。以下は大葉フィールドエージェントによる発見時報告書です。

報告者

大葉フィールドエージェント

発見日

2019/02/██

補足事項

警官として潜入中であり、非財団職員の警官1名が同行中でした。

対象物件は十勝郡██町郊外に位置する築40年以上の木造戸建てです。住人の死亡届や転居届は提出されておらず、近隣住民からの「郵便物が溜まっており、様子がおかしい」との通報により現地調査を開始したものです。近隣住民の話によると、両親に先立たれた男性が犬と共に暮らしているはずであるとのことでした。

敷地内に踏み入った時点で、腐敗臭ではない強い異臭が確認されました。また通報の通り、郵便受けは明らかに内容物が回収されず放置された様子でした。のちに確認したところ、もっとも古い郵便物の消印は12月18日でした。

呼び鈴を鳴らし、家主に向けて何度か声をかけましたが、反応はありませんでした。同行した警官と相談の上、内部の安否確認が必要と判断し、ドアノブに手をかけました。玄関扉は、剥がれるようなバリっとした音と感触があったものの、施錠はされていませんでした。また、扉を開けたと同時に、鼻を刺すような臭いを帯びた空気が広がりました。土間には郵便受けから溢れた郵便物が散らばっており、水分を含んでいるようでブーツの底に貼りつきました。

異臭の中、廊下の奥から物音がしたので声を掛けながら進みました。すると一匹のビーグル犬が半開きのドアを頭で押しのけて、かれた鳴き声で小さく吠えながら近付いてきました。ビーグルの背中や首は部分的に毛が抜けており、痛々しく赤くなった皮膚が見えていました。また、鼻先は爛れて鼻水が固まっているようでした。ビーグルは私の足に擦り寄ってくると、ズボンの裾をくわえて引っ張ろうとしていました。

同行した警官に先行する旨と、何かあれば連絡は私が行う旨を伝え、ビーグルに引っ張られるまま廊下を進みました。途中、ペット用トイレ砂の裂けた包装があり、周りに砂が撒き散らされていました。砂は固まって床に貼りついており、このビーグルが排泄のために自力でこのようにしたことが察せられました。後の調査で、ここ以外に寝室の敷布団とマットレスをビーグルはトイレとして利用していたことが分かり、強い異臭の原因はこれらにあると判明しました。

居間に入ると、まず水道が細く流れる音に気付きました。そちらを向こうとした時、ソファに横たわるSCP-2585-JPを発見しました。私は彼に生存の可能性があるようには見えませんでした。口元、鼻、頬にかけて著しい損傷があり、歯や骨、筋肉が剥き出しになっている一方で出血が無かったからです。一方で一般的な孤独死遺体と異なり、体液の漏出や腐敗の進行などは見られず、肉体的には死後数時間程度に見受けられました。この状況から遺体を異常存在と推定し、フィールド即応チームに出動を要請しました。

SCP-2585-JPの周囲にはタオルケットや毛布が集められており、また犬の抜け毛が多く見受けられたことからビーグルはここで生活を行っていたと思われます。この領域には糞尿による汚染が見受けられませんでした。フィールド即応チームが到着するまでの間、ビーグルはSCP-2585-JPを舐めたり、しきりに私達をSCP-2585-JPのそばに引っ張ろうとしていました。同行警官は損傷した死体にたじろぎながらも、ビーグルの行動を見て感傷的な発言をしており、遺体の異常性には気付いていないようでした。このおかげで、私は彼を鎮圧せずに済みました。

フィールド即応チームは同行警官を適切に処置し、SCP-2585-JP及びビーグル犬を確保しました。

初期調査の結果、このビーグル犬の胃内容物から、SCP-2585-JPと遺伝的に同一の組織片が検出されました。このことから、当該個体はSCP-2585-JPの肉体を摂食することにより長期間にわたって生存していた可能性が示唆されました。財団はビーグル犬を一時的に保護し、関連する異常性の有無について観察を行いました。

補遺1

当該ビーグル犬に関して、3カ月の観察期間と複数の試験により異常を有さない可能性が極めて高いと判断されました。このことから、さらなる観察のために勤務態度の良好なDクラス職員との交流を行わせる提案がなされました。これは親密な人間に何らかの変化が発生するかを観測する目的で行われます。後日、この提案は承認されました。

補遺2

さらに6カ月後、さらなる観察期間を経て同個体は非異常と判断されました。財団が非異常のイヌの保護を継続する合理的根拠は存在せず、処分や実験動物への転用が提案されました。

インシデント記録

SCP-2585-JPの異常な肉体再生において初めての逸脱が観測されました。これは毎日の定期観測のために右手背に切創を加えた際、通常の周期を逸脱して即座に再生が起き、体表温が26.5℃から33.8℃に変化したものです。この逸脱の原因として、同日14時頃に行われたビーグル犬の処分および他用途への転用に関する内部提案の関連が疑われました。検証のため当該の内部提案を凍結したところ、SCP-2585-JPの肉体再生は通常通り23時に発生し、SCP-2585-JPが財団の行動または当該ビーグル犬の処遇に反応を示しているという仮説が立てられました。

反応観察試験ログ

前述の事案を受け、SCP-2585-JPに対し反応観察試験が行われました。以下は重要な部分の抜粋と区間ごとの考察です。

試験ログ011

概要

「もし私の声が聞こえる場合、傷をすぐに塞いでください」と口頭で指示を出した上で切創を加える。

結果

切創が直ちに塞がる。

付記

以降、方法を変えて指示に反応していることを確認する。

試験ログ014

概要

「もし私の声が聞こえる場合、傷を5秒後に塞いでください」と口頭で指示を出した上で切創を加える。

結果

切創が5秒後に塞がる。

付記

SCP-2585-JPは音声を知覚して適切に反応しているものと推定される。

試験ログ015

概要

「傷つけられることに苦痛を感じている場合、傷をすぐに塞いでください」と口頭で指示を出した上で切創を加える。

結果

切創が直ちに塞がる。

付記

SCP-2585-JPは痛覚を有しているものと推定される。以降、SCP-2585-JPの異常性を発現させる場合は爪に切り込みを入れる手法を用いる。

試験ログ017

概要

「任意の順番で傷を再生できる場合、中指から再生してください」と口頭で指示を出した上でSCP-2585-JPの右手人差し指、中指、薬指の順で爪に浅く切り込みを入れる。

結果

薬指、中指、人差し指の順で、爪の切り込みが塞がる。

付記

SCP-2585-JPの再生能力の本質は時間の逆行であることが再確認される。

試験ログ020

概要

「生前と同様の感覚を有していますか」と口頭で質問。

結果

どちらとも言えない

試験ログ021

概要

「生前よりも感覚は鈍っていますか」と口頭で質問。

結果

否定

付記

後の実験においてもSCP-2585-JPは痛覚が生前同様に機能するかのように回答しているが、そうである場合大規模な欠損時に反射的に再生を行うのではないかと疑義が持ち上がっている。

試験ログ023

概要

「あなたの体を火葬した場合、それでも再生できますか」と口頭で質問。

結果

否定

付記

通常の「否定」よりも明確かつ即時の反応が得られた。この反応は感情的な拒絶反応として解釈された。なお、別の機会に残虐な破壊を示唆する質問を脈絡なく行った際にも同様の反応が見られており、この反応の信頼性は高いと判断されている。

試験ログ026

概要

「生前よりも感覚は強くなっていますか」と口頭で質問。

結果

やや肯定

試験ログ027

概要

「あなたは通常ではない、例えば超能力のような知覚能力を有していますか」と口頭で質問。

結果

やや肯定

試験ログ031

概要

「あなたはあのビーグル犬に関して、超能力のような知覚能力を有していますか」と口頭で質問。

結果

肯定

試験ログ291

概要

「あのビーグル犬はあなたにとって重要な存在ですか」と口頭で質問。

付記

通常の「肯定」よりも明確かつ即時の反応が得られた。

試験ログ294

概要

「あのビーグル犬が保護されることを望んでいますか」と口頭で質問。

結果

肯定

この後に重ねられた試験から、SCP-2585-JPの思考と意志が大まかに示され、以下のような全体像が推察されています。

SCP-2585-JPは異常性をあらかじめ規則的に発現させ、パターンからの逸脱が異常事態として認識されるよう計画していた。これは財団との意思疎通の機会を得るためである。背景として、SCP-2585-JPは収容初期の段階からビーグル犬の未来を限定的に知ることで財団の行動原理をある程度把握しており、またビーグル犬が財団に保護されない未来が高い確率で発生すると認知していた。

試験より、SCP-2585-JPはこのビーグル犬が保護されなければ肉体の再生を行わない意志を示しています。これにより腐敗・崩壊を進行させることで、財団による自身の保護を物理的に不可能にするという意図も読み取られています。

再評価

原則として、アノマリーの脅迫に応じる形で収容を行うことは望ましくありません。また、冷凍保存によってSCP-2585-JPの意志と関係なく物理的な保護を行うことは理論上可能です。したがって、そもそもこれは脅迫として成立しておらず、SCP-2585-JPの知覚の限界を示唆しています。ただし、要求内容は受容可能なものであることや後述の要素を考慮し、要求に応じることが決定されました。オブジェクトクラスはEuclidとして再分類される予定です。また、再生能力を確認する毎日のプロトコルも、爪に切り込みを入れるのみとし、SCP-2585-JPの苦痛を軽減します。

通常、知性体であるアノマリーを活用することは高いリスクが伴うため現実的ではありません。しかしながらSCP-2585-JPの行動原理を鑑みると、当該ビーグル犬を巻き込むような重大なインシデントの発生を予測するようなケースでは協力が見込めると推定されています。この機会に備え、より高性能なSCP-2585-JPとの意思疎通手段が現在開発中であり、またこのビーグル犬は心身の健康を最大限維持するよう保護されます。


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