SCP-2830-JP : どうしようもないクズ、あるいは誰よりも優しかったひと

Information

Name: どうしようもないクズ、あるいは誰よりも優しかったひと
Author: ichinasi234
Rating: 35/75
Created at: Sat May 01 2021
アイテム番号: SCP-2830-JP
オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル

SCP-2830-JPはサイト-81██の標準生物収容セルに収容され、収容室内部への立ち入りは原則禁止されます。SCP-2830-JPは現在うつ病と診断されており、1日に1度カウンセリングが行われます。

説明

SCP-2830-JP

SCP-2830-JPは日本人の成人程度の知能を持ち、日本語を発話可能なオスのオオサンショウウオ(Andrias japonicus)です。

SCP-2830-JPの異常性はSCP-2830-JPと任意の生物(以下、対象とする)が密室(以下、SCP-2830-JP-Aとする)に入った場合に発生します。その際、SCP-2830-JPと対象はいかなる方法を用いてもSCP-2830-JP-Aの内部から脱出する事が不可能になります。しかし、第三者が外部から扉を開けるなどの行為をした場合には脱出可能となります。

SCP-2830-JPは20██年█月から同年██月にかけて発生した連続誘拐事件の捜査の際に犯人である██氏の自宅から発見されました。発見当時SCP-2830-JPは結束バンドで拘束されており、██氏はSCP-2830-JPの異常性を被害者の監禁に用いていたと考えられています。

インタビュー対象: 若槻 綾乃わかず あやの氏1

インタビュアー: 井上博士

付記: 混乱を避けるため、若槻氏にはこのインタビューは警察による捜査の一環だと説明しています。

<録音開始>

インタビュアー: それではインタビューを始めます。若槻さんは監禁時にあの山椒魚と会話していた、との事ですが……

若槻氏: はい。信じられないかもしれないんですけど、あの人……人って言うのも変ですけど、あの人はいっつも私と話してくれてました。

インタビュアー: 主にどのような事を話していたのですか?

若槻氏: 取り留めのない話ばっかりでした。くだらない冗談を言い合ったり、アイツ2の出す食事に文句をつけたり。

インタビュアー: なるほど。特にこれといった事は無かった、と。

若槻氏: ……まあ、もしあの人がいなかったらと思うと今でもぞっとしますけどね。

インタビュアー: それはなぜですか?

若槻氏: 私、あの人と話している間だけはとても楽しかったんです。辛い現実を忘れられるって言うか、2人だけの世界に入れるって言うか。だからあの人が先に寝ちゃったりして静かになると途端にすごく不安になって、心細くなって……

インタビュアー: [相槌]

若槻氏: 間違いなく、私一人だったら心を病んでたと思います。あの人がいたから、あの人と話す事ができたから、孤独を紛らわす事ができたんだと思います。

インタビュアー: 分かりました。では、これでインタビューを終わります。ありがとうございました。

若槻氏: ……あの、

インタビュアー: はい、なんでしょうか?

若槻氏: 出来れば、あの人を1人にしてあげないでください。

インタビュアー: それはなぜでしょうか?

若槻氏: いえ、あの……1人は寂しいだろうなって。私がまさにそうだったから、何となく分かるんです。ずっと1人で居るのは辛いだろうなと、そう思います。

インタビュアー: ……ええ。善処します。

<録音終了>

対象: SCP-2830-JP

インタビュアー: 井上博士

<録音開始>

インタビュアー: それではインタビューを始めます。まず……

SCP-2830-JP: あんたらが俺に何を聞こうってんだ。なんだ、ヘソクリの隠し場所でも教えてやろうか?

インタビュアー: いえ、そうではなく。あなた自身についてを話してください。

SCP-2830-JP: ……こんなクズの事なんか聞いて何が楽しいんだよ。

インタビュアー: クズ?

SCP-2830-JP: 俺がクズじゃなきゃ何だってんだよ。

インタビュアー: いえ、若槻氏はあなたのおかげで孤独を紛らわせた、心を保てたと言っていましたが……

SCP-2830-JP: [数秒間沈黙]俺のおかげなもんか。俺みたいなクズはな、今すぐ死ぬべきなんだよ。

インタビュアー: それは……

SCP-2830-JP: 俺さえいなけりゃ、あの子達3は囚われる事も無かったんだ。そうだろ?俺がいなけりゃ、あんなクソ野郎の下衆な考えも成就しなかったはずなのに。

インタビュアー: ですが、あなたはいつも楽しげに話していたのではないのですか?

SCP-2830-JP: それくらいしか俺には出来なかったんだよ。俺だって、本当はあんな部屋に閉じ込めたくなかったさ。

インタビュアー: はい。

SCP-2830-JP: なのに1度ドアが閉まれば、もう開けられない。俺のせいで逃げられねえんだよ。

SCP-2830-JP: お前に想像できるか?あの暗い部屋に、ずっと一人きりで閉じ込められる子達の気持ちが。どんなに逃げたくても逃げ出せず、手錠で繋がれ、ただただあのクソ野郎に嬲られ続ける日々を。

インタビュアー: それは……いえ。

SCP-2830-JP: その辛さを少しでも忘れて欲しくて、何度も話しかけたさ。毎日話していれば、少しでも楽になるかと思って。

SCP-2830-JP: なのに、目の前であの子達はどんどん弱ってくんだよ。どんなにジョークを飛ばしても、どんなに怖い話をしても、少しも表情が変わらなくなるんだよ。

インタビュアー: ……ええ。

SCP-2830-JP: ピクリとも動かなくなって、1歩ずつ死に向かっていくのをただただ見る事しか出来なかったんだよ。そうなった原因はこの俺なのに。

[SCP-2830-JPが数秒間沈黙する。]

インタビュアー: ゆっくりで構いません。続けてください。

SCP-2830-JP: 最期には、『あなたがいて良かった』って、皆。どうせなら恨んで欲しかった。呪って欲しかった。

インタビュアー: ……ええ。

SCP-2830-JP: ……なあ、お前らは俺をここに閉じ込めるつもりなのか?

インタビュアー: それについてはお答えできません。

SCP-2830-JP: 別にそれでもいいさ。監禁されるのには慣れてる。だけど頼むから、絶対に俺と誰かを同じ部屋に入れないでくれ。

インタビュアー: それは我々としても徹底させます。

SCP-2830-JP: ああ、ありがとう。もうあんなのは見たくないん……[自嘲的に笑う]なんだ、やっぱりそうじゃねえか。

インタビュアー: 何がですか?

SCP-2830-JP: 散々悔やんでる風な事を言っときながら、結局のところはこれかよ。自分が見たくない、傷つきたくないだけのクセに。こんなの、アイツと何も変わんねえじゃねえかよ。

SCP-2830-JP: 身勝手で、結局は自分の身が可愛いだけのクソ野郎。……だからクズなんだよ。

[SCP-2830-JPが沈黙する。これより後の質問には一切返答しなかった為割愛。]

<録音終了>


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