SCP-5926

Information

Author: walksoldi
Rating: 2/4
Created at: Sat Jun 27 2026
アイテム番号: SCP-5926
オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル

SCP-5926はサイト-105の標準ヒト型実体収容セルに保管します。定期的に心理スクリーニングを実施し、同様にアメリア・カーター隊長とのエンリッチメントセッションも行うこととします。

SCP-5926は現在、その相対的な運動能力を確認するための身体検査を受けています。監視付きであればサイト-105のジム施設への立ち入りは許可されていますが、理由の如何を問わず取り消される可能性があります。

SCP-5926-Aは隔週に分解され、清掃と整備が実施されます。SCP-5926-Aの構造的完全性を維持するための認可済の資材は、サイト-105の5番備品保管室から入手できます。

説明

SCP-5926は現在SCP-5926-Aに宿っている実体です。SCP-5926は物理的な形態を持ちませんが、SCP-5926-Aが完全に密閉されていれば、発声や飲食物の摂取、周辺環境への干渉が可能です。SCP-5926は自身の性質や出自について知らないか、もしくはそれらについて語ろうとしません。一方で、SCP-5926は自らを女性代名詞で呼称する他、元から人間ではなく、近隣の部族集団の神話とも関わりが一切ないと主張しています。

SCP-5926-Aは、機動部隊ᐁ-23 "アイス・ベアーズ"1 のホッキョクグマのマスコットをイメージして製作された全身着ぐるみです。元々は、身長1.65 mの中肉中背の人物が着用する想定で製作されました。SCP-5926-Aの身長は1.65~2 mの間で変動し、布とフェイクファーで大部分が構成されているために重量はごく僅かです。SCP-5926-Aのマスクの内部には大量の血液が付着しています。実験の結果、この血液はヒトとホッキョクグマとの混合液であると判明しており、乾燥することも、SCP-5926-Aの素材に吸収されることもなく、衣装の靴部分へと滴下して消散します。

経緯

SCP-5926-Aが製作されるまで、機動部隊ᐁ-23はクマをモチーフとした装飾で各自の装備をアレンジしていました。これはホッキョクグマのオリジナルマスコットキャラクターである "スノーウィ" を模倣するための試みであり、その一環の例として、ヘッドセットに着けられた偽のクマ耳や、歯を剥き出しにしたクマの口を模したバンダナとフェイスマスク、クマの両手を模して作られたグローブなどが挙げられます。2015年、アメリア・カーター兵士2 (機動部隊-S-88 ("アニマル・コントロール") からᐁ-23へ異動) が、隊の士気を上げる手段として、SCP-5926-Aの製作を依頼しました。

2019年11月初頭におけるネクサス-239 (アラスカ州インヴィクタ) の収容成功を労う祝賀会の最中に、ノエル・アムンセン (Nx-239に存在するカルト宗教の "最高総督レガトゥス・マクシムス") がᐁ-23の祝賀会場である前哨基地を発見し、現場で銃を発砲して、無力化されるまでに5名の隊員を負傷させました。この過程で、当時SCP-5926-Aを着用していたアメリア・カーター隊長が頭部を撃たれました。銃弾はマスクを突き抜け、本来であればカーター隊長の頭蓋組織を貫通するはずでしたが、マスク部分でわずかに経路が頭部から逸れたため、当人は無傷で済みました。

SCP-5926-Aは修復された上で保管されていましたが、その後、SCP-5926がSCP-5926-Aに宿りました。当該アノマリーはカーター隊長によって整理箱に安置されていた状態から抜け出し、サイト-105の廊下を徘徊し始めたところを発見されました。

SCP-5926への事前インタビュー:

カーター隊長: OK、えー…… 異常オブジェクト5926とのインタビューを開始する。

SCP-5926: 私…… アノマリーなの?

カーター隊長: 意味を分かってて言ってるのか?

SCP-5926: ええ。私は収容される手筈なんでしょ。私は何なの?

カーター隊長: あんたがそれを上手く説明できれば良かったんだがな。今のところの有力説は、いわゆる…… 土着の精霊、みたいなのじゃないか? インビクタ周辺ではスピリチュアル的な活動が活発だから、もしかすると —

SCP-5926: ち — 違うわ。私…… ホッキョクグマなんじゃないの? 鏡にはそう映ってる。

SCP-5926が瞬く。SCP-5926-Aには瞼が設けられていないため、瞬きする機能は存在しない。

カーター隊長: ……あー。何だって?

SCP-5926: お願い…… 私には、何が何だか分からないの。私が…… 間違った存在なのは分かる。収容されなきゃいけないのも。でも — でも、私が何なのかは分からない。アムアム、お願い、助けて。

カーター隊長: ……今私のこと何て呼んだ?

SCP-5926: アムアムよ。それがあなたの名前でしょう?

カーター隊長がインタビューを終了する。

テレビ通話による精神鑑定: アメリア・カーター、2019/11/21

マーモット博士: 通信があまり明— ではないが、まあ良しとしよう。そっちは吹雪いているのか?

カーター隊長: ああ。

マーモット博士: まあどうに— しよう。インシデントから3週— 近くが経過したが、調子は— だ?

カーター隊長: いつもと変わらない。頭を撃たれる悪夢を毎晩見るし、今は怒ってもいる。2000ドル払ったものがどっかの変な幽霊に取り憑かれて、何というか…… 情けないよ。あれは自分が何なのすら思い出せていない。

マーモット博士: 分かるよ。トラウマを負った後でコスチュームを失うというのは、少しばかり —

カーター隊長: やめてくれ、博士、私たちは大人なんだ。書面上でなくとも、ファースーツはファースーツと呼ぶべきだろう。

マーモット博士: それもそうだな。君の…… ファースーツは、君にとって重要なものだったろう。

カーター隊長: ああ。最初は、ここのみんなを揶揄おうって馬鹿げた発想だった、けど…… やがてスノーウィは…… 隊の中心となったんだ、分かるか? あれを着ていると、自分が可愛らしく感じられた。これを人に見せないようにできた……

カーター隊長が右の頬の大きな傷跡を指し示す。この傷は、イリノイ州シカゴにおけるSCP-3312のアウトブレイクを鎮圧していた最中に受けたものである。

カーター隊長: 新しいものならいつでも作らせられるけど…… 分からない。何というか、スノーウィはもう…… 死んでしまったように感じる。

マーモット博士: 君はあれを着ている時に殺されかけたんだ。気持ちが相反していても不思議ではないよ。

カーター隊長: それは…… 全く違う。あの子はもう、私の一部ではない気がするんだ。銃弾が私の頭蓋骨からあの子を吹き飛ばしたかのような。

マーモット博士: それはどう解釈するべきか分からないな。私は…… 君のライフスタイルの一面に造詣は深くない。

カーター隊長: ああ、それでいい。あなたが理解できるとは思ってないよ。気を悪くさせたならすまない。

マーモット博士: 別に構わないさ。今まで多くの患者を診てきたが、分からないことは沢山ある。それでも、私は助けになりたいと思っているよ。

SCP-5926-Aを着用したアメリア・カーター伍長の最初の録画映像の書き起こし、2014年:

ᐁ-23所属の3名のエージェントがサイト-105兵舎のレクリエーションエリアに居る。エドワード・マルコム中尉は新人のエージェント・ペーター・ベルファストを録画しており、リチャード・ローリング中尉が背後で忍び笑いをしているのが見える。

マルコム中尉: よし、ピート。お前の入隊式を始めるぞ。

エージェント・ベルファスト: 新人しごきは財団プロトコル違反なのでは?

マルコム中尉: ああ、バリバリ違反だよ。だから、このことはどうか内密にな。

録音された数回の大きな足音と鎖のガラガラという音に伴って、ホッキョクグマの吠え声の録音が聞こえる。

エージェント・ベルファスト: 何だよこれ?!

マルコム中尉: 規則は規則だ。

マルコムがカバーを掛けられたテーブル・フットボールの上にカメラを置く。

マルコム中尉: アイス・ベアーズの一員になりたいなら、うちのマスコットに会うこったな。

ローリング中尉: 心配するな、彼女はきっと君を食べたりしない。ここ最近の新入りたちで満腹だからな。

マルコム中尉とローリング中尉が退室し、ドアをロックする。

エージェント・ベルファスト: えっ、何 —

吠え声の録音が再び聞こえる。エージェント・ベルファストが音の接近するトイレのドアに顔を向ける。

エージェント・ベルファスト: 決して恐れるな。恐怖は心を殺す。恐怖こそが全てに忘却をもたらす小さな死だ。俺は恐怖と向き合 —

上述したホッキョクグマの衣装を着たカーター伍長が角を曲がって休憩室に飛び込み、イスに飛び乗って、唸るような姿勢を取る。

カーター伍長: グォォォォォッ!

エージェント・ベルファスト: うわあぁぁっ!

部屋の外から大きな笑い声が響く。カーター隊長が笑い、イスから降りる。

カーター伍長: ドアをロックするのはちょっとやりすぎだろう、みんな!

マルコム中尉: こいつを閉じ込めたんじゃない、お前を閉じ込めたのさ、スノーウィ!

カーター伍長が笑う。

カーター伍長: からかうなよ、エド!

間も無くして、カメラのバッテリーが切れる。

SCP-5926 インタビュー5、2019/12/5

SCP-5926: 私を見る時いつも辛そうね、アミー。

カーター隊長: あんたにとってはカーターだ、5926ゴ キュウ ニ ロク。

SCP-5926: ご — ごめんなさい。怒らせるつもりはなかったの。あなたは傷ついてる。それがどうしてなのか知りたかっただけなの。

カーター隊長: あんたが何者なのかさっさと答えてくれれば、この痛みも少しは和らぐかもな。

SCP-5926: 知らないんだってば。私がホッキョクグマであることは知ってる、生きてるってことも知ってる、そして…… どういうわけか、あなたのことも知ってる。たくさんの痛みを覚えてるし、それに……

SCP-5926が頭を掴み、啜り泣く。

SCP-5926: どうして思い出せないの?

カーター隊長: 私が知るかよ。けど、あんたが何か思い出してくれないと話が進まない。あんたの代名詞に何を使えばいいのかも分かんないし、うちらも最近そういうの厳しくなってる — "冷徹だが残酷ではない" ってやつが、あんたらにも当て嵌ってきてるみたいだ。

SCP-5926: だ — 代名詞? 私は……

SCP-5926の声音が歪み、あたかも肉体が流動しているかのような濡れた音が伴う。

カーター隊長: うおおっ!

SCP-5926が一瞬痙攣する。SCP-5926から発される以降の声音は、カーター隊長の音声パターンをほぼ完璧に模倣している。当人はこの事実について、インタビュー後に本記録を聞かされるまで気付いていなかったように見受けられる。

SCP-5926: 私の代名詞は、"She" だと思う。

カーター隊長: あー。それはもういい。

SCP-5926の右目から血液が滴り、頬を流れてテーブルに落下する。

カーター隊長: 何だぁ?!

SCP-5926: ち — 違うの、大丈夫よ! 汚れたりしないから! ほら、これ — シミとかも付いてな —

カーター隊長がテーブルを乗り越え、SCP-5926-Aの頭部を殴打する。SCP-5926-Aから力が抜け、SCP-5926が啜り泣くのが聞こえる。この行為により、カーター隊長は懲戒処分を受けた。

カーター隊長とマルコム中尉の会話記録、2019/12/06:

マルコム中尉: カーター隊長。

カーター隊長: 何だ?

マルコム中尉: 俺たちは…… 率直に、友人として言うぞ? 俺たちはお前のことが心配なんだよ。スキップを殴り飛ばしたんだぞ。あれが痛みを感じられていたら、お前は今ごろ精神的な理由で休職していた。

カーター隊長: あいつは彼かの — 私の財産に血を垂らした。

マルコム中尉: そのことなんだが。奴の頭を元に戻すのに手間取って、あちこちに血が飛び散ってしまったんだ。それで検査を行ったところ…… その、ホッキョクグマの血液と、何か別のものが混ざっていた。

カーター隊長: 何か?

マルコム中尉: 財団の血液備蓄に一致するものがあった3。お前の母親は、サイト-21の研究員だったよな? デトロイトの?

カーター隊長: ああ。
 
マルコム中尉: その…… どういうことかは分からないが、奴の血はお前の母親とクソッたれなホッキョクグマとの子供なんだ — 完璧な遺伝子組み換えで、手を加えられた痕跡も、無理やり混ぜられた痕跡もない。アメリア、一体何が起きているんだ?

カーター隊長: 何だと?

マルコム中尉: ここに報告書がある。

カーター隊長がマルコム中尉の手から報告書を奪い取る。

カーター隊長: 何だ、これは?

テレビ通話による精神鑑定: アメリア・カーター、2020/01/15

カーター隊長: 話さなきゃいけないことがある。

マーモット博士: もちろん、だからこそ私はここにいるんだ。

カーター隊長: その…… 少しファーリーな話だ。ファーソナというのを知ってるか?

マーモット博士: ユングなら知っている。何となくなら分かるよ。何か…… 周りに他のファーリーがいる時に被るペルソナのようなものかな?

カーター隊長: まあそんなとこだ。要するに…… 自分がなりきろうとする主人公のことだよ。私は別にそういうつもりじゃなかったんだ、けど…… スノーウィは…… もしかしたら…… 何というか。

マーモット博士: もしかしたら、何だい?

カーター隊長: 思うに…… 死んだのはスノーウィだ。どういうわけか。ああ、あのネクサスは胡散臭いシャーマンめいたクソどもの温床だった。そして、私こそがあの胡散臭い骨の遺物を生贄の穴から全部運びだしたんだ。私は — 私は銃弾が頭を貫いたように感じた。被り物を剝いだとき悲鳴を上げた、自分が死んだものと思ったからだ。けど…

マーモット博士: つまり…… 君のファーソナが銃弾を肩代わりしてくれたと考えているのか? 文字通りに?

カーター隊長: ああ。そして…… 私がスーツを直したとき、あれが…… 彼女を呼び戻した。どうにかやって。けど彼女は思い出せない。

マーモット博士: ふむ。確かにそんなことが起こっても不思議ではない、思念体は十分に記録されている現象だ。もしかしたら、ファーリーであるというのは見た目以上に深い意味があるのかもしれない。

マーモット博士が歯の間から息を吸う。

マーモット博士: 正直に言うと、私も同じように考えていた。君がシカゴに呼び戻されない大きな理由はそれだろう — つまり、君こそがSCP-5926のウェルビーイングに必要不可欠だからだ。

カーター隊長: それで、私はどうすればいい?

マーモット博士: それは…… そういうファーソナを作るのは、どれほど大変なことなんだい?

カーター隊長: どうして?

マーモット博士: いいから。

SCP-5926 インタビュー6、2020/01/19:

カーター隊長: この前のことはすまなかった。

SCP-5926は沈黙したまま俯いている。両手がテーブルに乗っている。

カーター隊長: あなたが何なのか、何者なのか、分かったと思う。多分。

SCP-5926: あなたが忌み嫌うものよ。

カーター隊長: 私は…… あなたが、何か…… 私にとって大事なものを傷付けたように思ったんだ。もう7年近く持っていたそれを、だから…… ああ、もの凄く恥ずかしい。

SCP-5926: えっ?

カーター隊長: お気に入りの玩具を失って泣き喚く子供みたいだ。

SCP-5926: 私はそうは思わない。あなたが怒り狂ったのは…… その、私が本当にある何かを盗んだように感じたからでしょう。失ったのは玩具じゃないわ。多分…… ペット、というのが正しいんじゃないかしら?

カーター隊長: そうかもな。けど、私はそれを大切に思っていたんだ。そして私がそれを縫い直した時、あなたが宿った。どうしてそうなったのか、分かった気がする。

カーター隊長が自身の手をSCP-5926の手に重ねる。

カーター隊長: スノーウィ。ありがとう。

SCP-5926がカーター隊長を見て、瞬く。

SCP-5926: あなた…… 前と違って見えるわ。私のように。4アミーはもう、あなたには似合わない。

カーター隊長: なら、どうしようか?

SCP-5926: そうね…… 私がスノーウィなら…… 粉雪パウダーってのはどう?

カーター隊長: 考えておくよ。


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