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Author: Yukth
Rating: 1/5
Created at: Fri Mar 13 2026
アイテム番号: SCP-7234
オブジェクトクラス: Location
収容クラス: Euclid
特別収容プロトコル
当該アノマリーは厳重に警備された財団施設の地下に位置しているため、一般公衆に対する秘匿措置は不要です。SCP-7234への入口は密閉式エアロックにより確保されています。収容システムの保守作業を除き、職員がアノマリー内部に立ち入ることはいかなる理由でも許されません。
SCP-7234-2の回収システムは洞窟系最下部に設置されています。回収されたSCP-7234-2は異常流体標準処理手順に従って廃棄されなければなりません。
収容違反対応プロトコル
サイト-91で長期的な収容違反が発生した場合、廃棄システムが機能不全に陥る、または廃棄そのものが実施不能となる可能性があります。SCP-7234-2は可燃性を有しており、焼却処理による廃棄が可能です。しかしながら、その際に発生する煙は窒息の危険性を伴うため、密閉空間外へ適切に排気する必要があります。
いかなる状況においても、人間がSCP-7234-2をいかなる形態であれ摂取してはいけません。
説明
SCP-7234はサイト-91の地下に位置する洞窟系内部に存在します。当該洞窟系を進行する過程で、探索者は異空間 (E-7234に指定) へと到達することとなります。E-7234は、揚げ料理用油脂に類似する、橙色の粘性を有する非ニュートン流体の発生源として機能します。(以後、当該流体をSCP-7234-2に指定)
SCP-7234-2はその粘性に関して相反する性質を示します。当該物質は水とほぼ同等の粘度で流動し、その一方で高粘性物質のように生物および物体を捕捉します。実験室試験において、SCP-7234-2はpH値1を示し、岩石を部分的に溶解する能力を持ちます。SCP-7234-2は可燃性も有しており、気体へと蒸発することが可能です。気体状のSCP-7234-2は暗黄色であり、E-7234内部を覆い尽くしている雲の大部分を構成していると考えられています。
SCP-7234-2はSCP-7234を介して主現実へと流入し、当該アノマリーが存在する洞窟系に滞留し続けています。財団が当該アノマリーを認識して以来、SCP-7234-2の放出率は顕著に増加しています。統計データと生じうる最悪事態を想定した収容予測については、文書7234-SILVERを参照してください。
経緯
SCP-7234は、2002年に財団のDST所属の調査要員により発見されました。SCP-████に関連するCKクラス「現実再構築」イベントの発生後、システミック変質部門 (DST: Department of Systemic Transformation) により編成された調査チームに全財団サイトの調査が任務として割り当てられました。その過程において、サイト-91の3番階段室が他のいずれの階段よりも90m下方まで伸びていることが確認されました。当該階段の延長部分はサイト-91の設計図のいずれにも記載されておらず、用途不明と判断されました。
当該階段室がサイト-91の地下に存在する洞窟系に接続していることがDST職員により確認されました。洞窟系に進入した結果、SCP-7234-2およびSCP-7234と接触するに至りました。その後まもなく、次元間アノマリー標準収容プロトコルが確立され、洞窟系内部に滞留していた少量の油脂は効果的に破壊されました。
補遺
SCP-7234に関していかなる知識も有していないことをSCP-████は依然として認めていません。CKクラスイベントの発生時にSCP-████がSCP-7234に関する自身の記憶を消去したか、あるいはSCP-████のイベント関与以前からSCP-7234が存在していたかのいずれかと考えられています。
序言
2002年6月から8月に亘り、次元間インターディメンショナルアノマリー探査グループ (IEG: the Interdimensional Anomaly Exploration Group) はE-7234への侵入を多数回実施しました。後述の記録は、侵入とその結果を時系列順に整理したものです。本文書はIEGとシステミック変質部門 (DST: the Department of Systemic Transformation) との協働で編纂されました。
初期侵入
ドナー博士の指揮の下、IEGは初めにE-7234内部に向けて自律型ロボット車両群を展開しました。しかしながら、これらの試みの大半は失敗に終わっています。液体状ないし気体状のSCP-7234-2はドローンの回路系に干渉し、当該アノマリー内の正確な探査が阻害されました。ドローンを強化してSCP-7234-2による干渉を抑止した場合でも、E-7234内部の高温環境と頻発する地震活動に耐えることができませんでした。
無人探査が失敗したことを受け、E-7234に対して4名から成る探査チームをIEGは編成しました。ただし、ドナー博士に代わり、より上級の職員であるエージェント・サンダースが任務を指揮するという条件の下で実施されました。
侵入調査 7234-1
探査チームは、上級エージェント1名 (ジーン・ケッサップ、コードネーム: Ion-1)、エージェント2名 (マット・マーティンズおよびエド・ミュレー、コードネーム: Ion-2 および Ion-3)、ならびに技術職員1名 (トレバー・ジョンセン、コードネーム: Ion-4) で構成されていました。彼らにはサイト-91の基地司令部との通信を確保するため、E-7234内部各所に設置するための固定式無線およびUDP送信機が複数配備されました。
当該環境の持つ危険性を考慮し、耐熱スーツと有害化学物質濾過装置が探査チームへと配備されました。加えて、長期侵入用の標準装備として、2週間分の食料と飲料水、ならびに簡易シェルターが支給されました。
侵入調査の主目的は、SCP-7234-2の発生源を特定すること、およびにE-7234内部の既存生命の分布状況を把握することにありました。24時間ごとに基地司令部への定期連絡を行うよう探査チームは指示されていました。
以下はサイト-91で受信された通信の記録です。
<記録開始>
Ion-1: 無線テスト。基地司令部と接続している。送信機のLEDは緑色。
Ion-4: それは撮影準備完了を示しています。LEDの横のボタンを押してください。
Ion-1: ここか。うまく送れたか?
<画像記録: エアロック外、近傍に位置する洞窟内部が写真に撮られる。洞窟底部のSCP-7234-2が格子状床材を通り抜けて回収システム内へ流れ込む様子が確認される。>
Ion-4: 画像は問題なく送信されてます。完璧です。
Ion-1: よし、進むこととする。全員、洞窟の地図を持たされてるはずだ。そいつに地表へのルートが描き加えられてるだろう。あたしたちは赤色のルートを取ることになる。
Ion-2: 確認中。応答どうぞオーバー。
Ion-1: 財団の通信手順プロトコルは更新されている。「オーバー」は不要だ。
Ion-2: 了解であります、隊長殿。
Ion-3: ちょっと質問いいですか。
Ion-1: どうした、エド?
Ion-3: えっと、自分の空気濾過装置がうまく作動しなくて。
Ion-2: 胸部プレートの前面パネルについてる赤スイッチを切り替えすんだよ。
Ion-3: あっ、なるほど。すみません。
Ion-1: この任務を降りたいのなら今の内に言え、それも構わない。
Ion-3: いえ、大丈夫です。
Ion-1: 了解した。次回の報告は24時間後とする。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: 定時報告。ソナー測量図が正しければ、こちらは地表までおおよそ半分の地点にいるようだ。
Ion-3: ここ、暑いですね。ドローンを投入できなかった理由も分かりますよ。このスーツって耐熱仕様のはずですよね。
Ion-2: こいつらにも限度ってのがあるのさ、エド。
Ion-3: あぁもう、焼きマシュマロになったみたいな気分ですよ。どうして地中がこんななんですか?
Ion-2: そこのアブラん中で転がってみたらどうだ。少しは涼しくなるだろ。
Ion-3: 遠慮しときます、大丈夫です。
Ion-1: 先ほど、トレバーが気付いたことがある。
Ion-4: そんな大したものじゃありませんよ。単に地図を見比べただけです。
Ion-1: まあまあ、遠慮するな、トレバー。少しくらいは自分の手柄にしておけ。
Ion-2: それで? 何が分かったんだ?
Ion-1: ともかくだ、あたしたちはサイト-91周辺の洞窟内部の写真を何枚か持ってきている。見比べて違いがないか確認するためだ。
Ion-2: そいつは初耳だ。
Ion-1: 僅かに違いが認められるが… まあ何だ、何か妙だ。ここの石筍の形成パターンが完全に一致しているのが確認できた。
Ion-2: 比較してるってことは── っておい、あんたら、あっちの部門の人間なのか?
Ion-1: そうだ、トレバーとあたしはDSTから配属された。
Ion-3: インターディメンショナルの人だと思ってました、どうして言ってくれなかったんですか?
Ion-4: 聞かれませんでしたので。
Ion-3: いえ、別に大したことじゃないんです。ただ…
Ion-1: ただ、エージェント・サンダースがシステミック変質に関する専門知識を有したエージェントを欲していた、ただそれだけの話だ。あたしたちと君たちの目的は一致している。
Ion-2: 了解だ。
Ion-3: ここ、何かの胃の中みたいだって、そう思えませんか?
Ion-1: どういう意味だ、エド?
Ion-3: つまりですね、何だか… 何だろう、上手く言えないんですけど。僕たち、食道を下って、それで消化されている、まるでそんな感じがするんです。
Ion-2: エド、お前何を言いやがってんだ?
Ion-1: 実は、一理ある。
Ion-2: はぁ?
Ion-1: ここまでの洞窟には広い空間というものが一切存在しない。曲がりくねった通路だけだ。この油脂が胃酸のように機能していることを考えれば、胃を連想するのも理解できる。
Ion-2: あんた、こいつに調子合わせてやってんのか?
Ion-3: 僕がお腹空かせてるからそう思っただけかもしれません。
Ion-1: 今にして思えば随分と奇妙なことだ。こちらの洞窟に酸性の油脂が流れているのなら構造的にも納得できる。だが、向こうの洞窟に油脂は存在していない。一滴もありはしなかった。
Ion-4: 何だか妙ですね。まず洞窟があって、後から油だけが取り除かれたみたいで。
Ion-1: 興味深い。後で調査する必要がありそうだ。
Ion-2: 疲れた。この張り出しならキャンプに適してるだろうにな。
<数秒の沈黙が流れる。>
Ion-1: ここで休息とする。次回の報告は24時間後にする。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-2: 何だこりゃあ。
Ion-1: 地表に到達した。画像を送る。
Ion-3: 胃の中にいるんだなんて言いましたけど、これは、目を疑いますね。
<画像記録: 洞窟出口から外側、付近の景観が写されている。サイト-91が建設されていた谷地と形状が酷似している。しかしながら、山峰の一部はSCP-7234-2で化学的に腐食しており、サイト-91は存在しない。>
Ion-2: 空は完全に雲で覆われてんな。あっちの高い所でアブラが蒸発してるのが見える。山が侵食されてんのはそのせいか? 雲がアブラで出来てやがんのか?
Ion-1: 油脂は雲の更に上から降ってきている。雨とは違う、山そのものから溶け出しているようだ。
Ion-2: 沢山の… 見張り塔、か? どう呼べばいいか分からんが、やたらと建ってるな。
Ion-1: 谷の中央には複合的な施設が確認できる。規模はサイト-91よりかなり小さい。更にその上に塔が1本、雲を突き抜けて伸びている。
<Ion-3が咳き込む。>
Ion-3: 生きたまま焼かれてるみたいです。地中よりも上の方が酷いですね。
Ion-2: 大げさだな、そこまでじゃないだろ。
Ion-3: 自分の空気循環機が壊れてるんだと思います。空気が… 空気が顔に張り付くんです。消化されてる真っ最中の気分ですよ。
Ion-1: ああ。空気に粘り気がある。濃い粘性の液体みたいだ。
Ion-3: シロップを吸い込んでるみたいです。熱くて、脂まみれのシロップを。
Ion-2: 文句言うな。そう大したことはない。
Ion-3: 慣れますよ。
Ion-2: 慣れるって、お前──
Ion-3: 慣れるって言ったんです!
Ion-1: 双眼鏡で件の施設を確認している。外壁一面に菱形のマークが認められる。あたしには見覚えないものだがな。
Ion-2: 俺にも見せてくれ。
<数秒の沈黙が流れる。>
Ion-2: クソ、もう曇ってやがる。何も見えん。
Ion-3: どうして?
Ion-1: どういう意味だ?
Ion-3: どうしてこんなことに? 油脂はどこから来てるんですか?
Ion-2: お前が言ってただろ。胃みたいなものだって。
Ion-3: 何の胃なんです? 何が僕たちを食べてるっていうんですか? どうしてここにあるんですか?
Ion-4: 上方に何かある、ように見えます。塔を登ってみるのはどうでしょう?
Ion-3: どうでしょうか、引き返した方がいい気がします。分かったことより分からないことの方が多い状況ですから。何が起きてるか、研究班の分析を待つべきです。
Ion-1: 件の施設までは徒歩でも数日はかからないはずだ。ここまで来た以上は確認すべきだ。
Ion-3: 本気ですか? 僕ら誰一人として、人工構造物の探索許可なんて与えられてないんですよ?
Ion-1: あたしが許可する、その手の権限がある。
<数秒の沈黙が流れる。>
Ion-3: どうせなら、二度と行かずに済むようにしたいですね。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: 今日はここにキャンプを設置している。空の色がすっかり… まぁなんと言ったものか…
Ion-2: 今や、より暗澹たる色をしてるな。
Ion-1: あぁ、そうだな。今夜はここで休息することにしよう。谷を見渡せる台地の真下に、適した場所を見つけた。
Ion-3: ちょっぴり景色が綺麗ですね。ほら、星明かりが油に反射してますよ。
Ion-2: エド、お前目の検査受けた方がいいんじゃないか?
Ion-3: ちょっと、何ですか、芸術評論家か何かですか、貴方は?
Ion-2: いんや。
Ion-3: 気を紛らわせられるなら何だっていいですよ。あぁもう、最悪です。サウナみたいです、それも蒸気じゃなくて油が蒸発してるサウナ。とても耐えられません。
Ion-1: 見張り塔を1つ調べた。何のためにあるのかは不明だ。まだ動植物の痕跡は一切確認されていない、死骸すらもだ。
Ion-2: ある時までは動物もいたのかもしれないな。みんなして消えちまう前まではな。
Ion-3: でも、どうして皆消えたって言うんです? 骸骨の1つも見当たらないし。気味が悪い。 <咳き込む。>
Ion-2: 消化されたんじゃないか?
Ion-3: 骨まで全部、ですか?「胃」説、もはや笑えないんですが。
Ion-2: おいおい、みんなして月にぶっ飛んでったってだけかもしれないだろ? そんなの初めてお目にかかるってわけじゃないしな。
Ion-1: その手の憶測は役に立たない。
Ion-2: 少なくとも、ここで起きていることを理解しようとはしてるぜ。それが俺らの職務だからな、ディメンショナルさんよ。
Ion-1: まぁ落ち着け。まずは見張り塔の画像を送信する。
<画像記録: 1基の見張り塔が写されている。見張り塔は峡谷の岩壁に食い込んでいる。支柱はクロム素材で構成されており、上部は正方形の褐色鋼材で形成されている。各面に1枚の窓が設けられており、そのうち1つは割れている。見張り塔の頂点に滴った油脂がその側面を伝って地表へと流下している。>
Ion-1: 特に目立ったものは塔の内部で確認できなかった。奇妙なことだが、谷全域に塔が点在している。財団の設計でないことは疑いようもない。
Ion-3: あの中で眠れませんか?
Ion-2: なんつった?
Ion-3: 守ってくれるんじゃないかって思って、この… この外気から。
Ion-4: 地震についても報告すべきです。
Ion-1: あぁ、そうだな、思い出させてくれて助かった。先ほど小さな地震が起きた。大したことはない、だが足を取られる程度には揺れた。
Ion-4: 以前に探査機が邪魔されたのはこれだと思われます。今までも軽微な揺れは観測されてきましたが、これほどに大きなものは初めてです。
Ion-1: 明日は谷へと降りていくとしよう。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: 1名負傷者が出た。谷をロープ降下中に──
Ion-4: 誓って私のせいじゃありませんよ。例の地震のせいです。
Ion-3: その言い訳、捻挫した僕の足首に向かってやってみてくださいよ!
Ion-2: 大したことないだろ、エド。まだ歩けるんだから。
Ion-3: 死ぬほど痛むんですよ。頭から爪先まで、マックナゲットみたいに油まみれな状態じゃ余計に酷く痛むんです。皮膚が擦り剝けてるんです。
Ion-2: 俺は子守りのためにこの部隊に入ったわけじゃねぇぞ。
Ion-1: すまない、帰還してから軍法会議に君はかけられたいのか?
Ion-2: いいや、そりゃ結構だ。俺たちは同じ部門所属ですらない。あんたにゃ俺を指揮する権限はないだろ。
Ion-1: この任務では、あたしに権限がある。
<通信が途絶する。>
Ion-2: いいだろう。少なくとも、あの施設まで行くのには従おう。このまま谷のド真ん中で丸裸の的みたいに無防備でいるのは勘弁だからな。
Ion-3: 新しい説を考えました。
Ion-1: 何だ?
Ion-3: ここは胃じゃありません。でも、胃になろうとしてる最中なんです。
Ion-2: 何を言おうとしてんだ?
Ion-3: すみません、伝え方が悪かったですね。要するに… ここにはかつて人がいて… あるいは異星人エイリアンかも。よくは分かりませんけど、見張り塔を見てください。あちらこちらに建っている。財団の設計じゃない。それどころか人間の設計ですらない。
Ion-4: 私もそう思います。サリア星人サリアンの建築に酷似しています。
Ion-2: 本当か? シリアには行ったことないが、こんな感じじゃないと思うんだが。
Ion-4: そうじゃ── いや、何でもありません。
Ion-3: 僕たちは液体に分解されるはずだったんです。でも、まだそれができない。だから地震でこちらを無力化しようとしている。それが実現されてしまう前に脱出しないと。
Ion-2: 流石に無理があるだろ。
Ion-1: 同感だ。油脂についての説はまだ納得できる、だが地震については? その理屈には頷けない。
Ion-3: いいでしょう、分かりました。<呻き声を上げる。> でしたら、貴女はどう思うんですか?
Ion-1: 結論を出すには根拠が不足している。
Ion-4: 何らかの大量破壊兵器だった可能性はないでしょうか。周りを見てください。見張り塔が複数に、防御設備が1つ。軍事基地である可能性は否定できません。
Ion-2: つまり何だ、爆弾でも落とされて、アブラまみれにされたって言うのか? マンハッタン計画に従事するようにロナルド・マクドナルドと契約したとでも?
Ion-4: 爆弾ではない、かもしれません、つまり… よくは分かりません。
Ion-1: いずれにせよ、件の施設へ向かい、発見できた物を調査すべきに思える。
Ion-2: 賛成だ。ここにいても何も分かりやしない。
Ion-3: マット、貴方はどう思いますか?
Ion-2: どうって? あぁ、俺の考えか。
Ion-3: そうです、どう考えます?
Ion-2: 財団のやったことだ。
Ion-3: それはどういう? 僕たちがやったって思うんですか?
Ion-2: 俺たちじゃない、こっちの世界の財団だ。何かのアノマリーを実験していて、やらかしたのかもしれない。
Ion-1: 君は、あたしたち財団をそんなに信用していないのか?
Ion-4: 筋は通ります。つまり、別宇宙の財団か何かによってここにあるもの全て建てられた可能性は否めません。
Ion-3: 脚が痛みます。少し休めませんか。
Ion-1: 了解した。ここで少し休むとしよう。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: ついに複合施設に到着した。これまでに確認された見張り塔と同様の構造をしている。
<画像記録: 初回侵入時に確認された複合施設が写される。第1層および第3層は見張り塔と同じくクロム鍍金された素材で構成されており、第2層は褐色の素材で形成されている。外壁には小型のダイヤモンド形の窓が複数設けられている。複合施設の上部には雲層を突き抜けて伸びる塔が1つ位置している。>
<画像記録: 複合施設内部の最初の区画が写される。室内には殆ど物がなく、天井と壁の境に当たる水平縁部に故障した照明装置が1基設置されている。床には、五角形の内部に4つの三角形が配置された紋章が彫刻されており、その中心部に油脂が滞留し始めている。>
Ion-3: 断崖に直接彫られて建ってますね。こんなに地震が多いのに、無謀じゃないですか?
Ion-4: 最初の地震が起きる前に建設されたのかも?
Ion-3: それなら納得ですね。正直言えば、遠くから見た時にはもっと小さく感じられましたけど、いざ近くで見ればずっと大きいですね。
Ion-1: これより二人一組の隊形で前進する。何か発見があり次第に報告する。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: 地下階第1層のマッピングを完了した。
Ion-4: ここには何もありません。持ち運べる物は全部持って行かれたみたいです。
Ion-2: どうだろうな、ただ見えてないってだけかもしれない。ここは地獄クソほど暗いからな。
Ion-3: まあまあ、自分は文句ありませんよ。ここはオーブンの中みたいな熱さじゃないんですから。
Ion-1: 第2層へ向かおう。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: 2階はコンピューター・ステーションだ。
<画像記録: 暗褐色をした室内が写される。背の高い金属製装置が6基、部屋の中心を占めるように存在している。西側の壁面には大型ディスプレイが1台埋め込まれている。床一面にゴム製配線が散乱している。南東隅の壁面内部には1基の装置が設置されており、黒色金属製の1本の支柱で連結した円筒状水晶ディスク2枚から装置は構成されている。>
Ion-4: 控えめに言っても、このコンピューターたちは興味深い。技術水準が50年前のものと50年先のものが同時に存在しているように見えます。
Ion-2: どうしてここにコンピューターがある? ここで起きてることとどう関係してるってんだ?
Ion-3: あっちの隅のあれは? まるで『スタートレック』に出てくる装置です。
Ion-1: こちらのディスプレイの1つが点いてる、それに… 多分、こいつは電源ボタンか?
Ion-2: あんた、押すつもりか?
Ion-1: どう思う? 多数決を採ろうか。
Ion-4: やめた方がよいと思います。救援が来るまで待ちましょう。
Ion-2: やれよ。危険を冒さなきゃ何も得られない。
Ion-3: そうです、やりましょう。ここまでの道のりを無駄にしたくありません。
Ion-1: わかった。押すとしよう。
<Ion-1がボタンを押す音とそれに続くコンピュータ群の起動音。>
Ion-4: まだ電源が生きている? これは驚きですね。
<突如として、コンピュータ群の動作音が止む。>
Ion-1: どうして止まった?
Ion-3: ディスプレイに何か表示されました。
Ion-4: 英語だ。
Ion-2: 待て。<読み上げ…>「星光電力が枯渇。再接続してください。」
Ion-1: "星光電力" だと? 意味が分からない。
<突然、激しい地震の轟音が響く。揺れの最中、金属が軋む音と床面が崩落する音とが断続的に記録される。Ion-2が叫び声を上げる。>
Ion-1: 下からだ!
Ion-3: 待ってください、誰かいるのでは?
Ion-1: 隊形を組め。銃を構えろ。
<2つの階段を降下する足音、続いて地下階を移動する足音。>
Ion-1: 妙だ。床がここで破断している。下に帯水層が見える。
Ion-3: 帯"水"層? 流れてるの、油ですよ。
<画像記録: 地下階の床の一部分が破断している様子が懐中電灯により写される。流れる油脂で満たされた1本の流路が床の真下で照らされている。>
Ion-4: あんな速度で流れる油脂は初めて見ます。
Ion-1: 一線を越えた。基地へ戻らなければ。
<再び地震が発生する。床のあちらこちらが崩落し、金属の引き裂かれる音が響く。隊員たちは混乱状態に陥る。>
Ion-2: 走れ!
Ion-1: ジョンセン!
Ion-4: 嵌った! 床が抜けた!
Ion-3: 跳んで、ジョンセン! 掴みます!
<ジョンセンが跳躍する音。直後に油脂の河へ落下するとともに低い轟音の一鳴りがする。悲鳴がする。>
Ion-1: だめだ、トレバー!
Ion-4: ハマった、わた──
<油脂の中へと為す術なく沈んでいくにつれて、Ion-4の言葉が徐々に聞き取れなくなっていく。なおも抵抗を続けるがどうにもならず、その悲鳴はくぐもっていく。>
Ion-1: エド、助けに行くな!
Ion-3: 行かないと! 僕が──
<通信が途絶え、Ion-4は沈黙する。油脂の川に流されていく。>
Ion-1: エージェント・エドゥアール・ミュレー、引き返してここから離脱しろ、命令だ、今すぐにだ!
Ion-3: 彼が──
<3人の頭上の天井が崩落する。激痛からIon-3が叫び声を上げる。その後も続く地震活動の音をマイクが拾い、やがて音声通信が途絶する。>
<記録終了>
上記インシデントの発生に伴い、突如としてE-7234内部にいた探査チームとの通信が途絶しました。サイト-91の職員がSCP-7234を調査した結果、洞窟内部において大規模な崩落が発生していたことが判明しました。通信に使用されていた送信機の多数が著しい損傷を受けていました。ソナー解析の結果、この崩落により地上とサイト-91とを連結する経路の全てが事実上消失しており、その再確立には大規模な掘削作業が必要と判断されました。
探査チームとの通信を再確立すべく、サイト-91はSCP-7234内部へ試験的な高周波アンテナを設置しました。断絶から15時間を経て通信が再び確立・開始されました。
<記録開始>
Ion-1: クソっ、自分以外の声がこんなにありがたいと思ったことはない。
Ion-2: こっちで、俺はマジで気をやられそうになってんぜ。
Ion-1: トレバー・ジョンセンは死亡した。あの施設にいる間に足元の床が崩落し、地下を流れる油脂の河へ転落した。彼は動けなくなった、流されていった。
Ion-2: そのことは考えたくもない。あいつの表情が頭にこびりついてる、歪んでった顔が忘れられない。
Ion-1: 幸いなことに、油脂が留まってるのは地下階だけだ。
Ion-3: 皮膚が剥がれてる! 助けてください!
Ion-1: スーツが勝手に数秒で洗浄を行う。
<吸引音。Ion-3が激痛の叫びを上げる。>
Ion-1: エドのスーツは故障した、それで油脂が入り込んだ。こちらは洞窟入口へ戻る道の途中にいる。崩落が発生した状況ではあるが、生きて脱出するための最善策だ。ここでは高所に陣取ってる方がマシだ。
Ion-3: 油は沸騰してるみたいに熱かったです。全身が、僕は火傷まみれになってるはずです。焼かれてるみたいな感覚が…
<Ion-3が嗚咽を上げ始める。>
Ion-3: 彼は跳んだんです、それで僕が掴む、そのはずだったのに! 手から擦り落ちていった! <Ion-3の咳き込み。> 足首を捻ってなければ、もしかしたら──
Ion-1: エド。
Ion-3: 掴めたはずなんです、そうすれば彼は生きてた! 家族もいたのに… ただの技術者だったんだ、こんな死に方をするはずの人じゃなかったのに!
Ion-1: 取り乱すな、エド。今、すぐにだ。
Ion-3: 僕のせいだ! 彼は…… 彼は生きて──
Ion-2: やめろ。
<数秒の沈黙が流れる。>
Ion-1: すまない、エド。辛いのは分かる、だが自分を責めるな。君の責任ではない。
Ion-2: 言わせてもらえば、俺らはもう死人も同然だ。これ以上、エドの泣き言に耳を傾けてる暇はない。自分で立ち直るか、さもなきゃ俺が黙らせるか、2つに1つだ。
Ion-1: 洞窟入口へ向かう。以上だ。君たちは2人して財団職員だろう。なら気を引き締めて、財団職員らしい振る舞いをしてくれ。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: 今がおおよそにして半分の地点だ。森の中で休息を取ろう。
Ion-2: そう時間もかからない、残りもすぐ行けるだろ。
Ion-1: マット、水が不足している。体力を使い切るわけにはいかない。
<通信が途絶する。>
<破裂音。>
Ion-2: 今のは何だ?
Ion-3: ごめんなさい、油のせいでニキビができて。つい潰してしまうんです。
Ion-2: どうしてそんなデカい音なんだ?
Ion-3: どれもゴルフボールくらいのサイズなんです。それに、何をしたってどうせ…
<数秒の沈黙が流れる。>
Ion-1: 遠くの油脂の流れが速くなっているようだ。目の錯覚かもしれないが──
Ion-2: 錯覚だ。最初からあの速度だった。
<通信が途絶する。>
Ion-1: ドナー博士から酸掘削機アシッドドリルについての連絡が入った。
Ion-2: アシッドドリル?
Ion-1: サイト-91で保有している掘削装置だ。地表までトンネルを掘るのに、あれなら1週間とかからないはずだ。
Ion-2: どうしてサイト-91にアシッドドリルなんてのがあるんだ? セーフクラスサイトじゃなかったか。
Ion-1: 授かり物に文句を言うな。
<地震が発生する。揺れによりIon-2が転倒し、「うおっ」と声を上げる。>
Ion-1: 大丈夫、大丈夫だ。
<再度の破裂音。>
Ion-2: またお前か、エド?
Ion-3: えぇ。気持ちいいんです。
Ion-1: 水再循環機はジョンセンが持っていた。つまり、今持っている水が全量ということだ。節約を徹底して消耗を避ければ、少なくとも2週間は持ちこたえられるだろう。
Ion-2: 同感だ。
Ion-3: 体力を温存します。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: 洞窟入口に到達した。ここは高台だ、油脂の心配はしなくていいはずだ。
<破裂音。Ion-3が呻き声を上げる。>
Ion-2: 何だってんだよ、クソが。
Ion-3: ニキビを潰すと、すごく気持ちいいんです。
Ion-2: やめられるか? 気色悪いんだよ。
Ion-3: 火傷のせいで、動くたびに皮膚が裂けるんです。楽になるにはこれしかないんです。止めようがないですよ。
Ion-2: 俺はそれより酷い目にも遭ってきたぞ。そろそろドリルの音が聞こえていい頃合いじゃないか?
Ion-1: 少しのトラブルがあったが、向かってきている。
Ion-3: 僕がここにいる理由、知ってますか?
Ion-2: 知らないし、興味もない。
Ion-3: 兄さんが、ハンクが、SCP-7234を発見したエージェントだったんです。それでIEG内でのコネができて、そのコネを使って自分はここに配属されたんです。
<通信が途絶する。>
Ion-3: ちくしょう。今頃、兄さんは自分自身をクソ野郎だと思ってるに違いないな。
Ion-1: すまない、エド。もうすぐここから出られる。
<記録終了>
<記録開始>
<連続する破裂音。Ion-3が快感の呻き声を上げる。>
Ion-2: やめろ、エド。
Ion-3: 指図しないでください。
Ion-1: 頼む、今の作業進捗を報告してくれ。周辺温度が著しく上昇してきている。
Ion-2: 連中、どうやったらこんなに遅くできるってんだよ?
Ion-1: 敵対的環境下で掘削機を運転させるのは危険を伴う作業だからな。
Ion-2: "敵対的環境" だぁ? ここで敵対的と言えそうなのは非動物のアブラしかないだろ。
Ion-1: マット、財団は来る、あたしたちを救助しに来る。
Ion-2: 本気でそう思ってるわけか? 俺はインターディメンショナルの奴らを知ってる。あいつらなら、本当に来る。自分の仲間を救いに戻ってくる。まだあいつらが指揮していたなら、何かしら… テレポーターでも、適当な装置でも何でも、急ごしらえで作り上げて、俺らはとっくに脱出して、それで今頃は "おかえりなさい" のお祝いケーキでも食ってただろうよ。
<Ion-3が泣き始める。>
Ion-3: 僕は人でなしモンスターなんだ。
Ion-1: やめろ、2人とも。
Ion-2: なら、地下に置いてくるべきだったな、そこがモンスターのいるべき場所だろ。
Ion-1: おい、ふざけたことを──
<記録終了>
この時点で、探査チーム救出のために運用されていた酸掘削機は使用中止とされました。これは油脂が掘削機の機構部へと干渉し始めたことに起因します。閉塞の解決に爆薬を使用した場合にサイト-91へ重大な損傷が生じる危険性があったため、当該手段は採択されませんでした。O5-13は任務失敗を宣言し、1 侵入調査に割り当てられていた装置の解体・他プロジェクトへの再配分が命じられました。
この決定を受けて、通信に使用されていた送信機は解体され、探査チームとの通信は完全に断絶されることとなりました。しかしながら、送信機が機能を停止するまでの間に新たな通信が受信・記録されています。加えて、その後も暫くの間、サイト-91の標準アンテナに断続的な無線通信が受信されました。
<記録開始>
Ion-1: 頼む、状況報告を反応してくれ。
Ion-3: 本当に、来るんですか?
Ion-1: そうだ、財団は来る。財団は職員の生存確保のために取り得るあらゆる手段を講じる。
Ion-2: ご立派なお言葉だな、ジーン、まるで台本を読んでるみたいにな。自分の目と耳が言ってることには意に介さないってわけか。
Ion-1: どういうことだ?
Ion-2: 少し黙って、何が聞こえるか言ってみろ。
<通信が途絶する。ニキビが潰される音。>
Ion-2: エド、1秒でいい、やめてくれないか? たった1秒だぞ?
<通信が途絶する。>
Ion-2: 聞こえたか? 静寂だ、何の音もしない。なら、どうして掘削機の音が聞こえない?
Ion-1: この洞窟は途轍もなく広い。それにだ、忘れてるみたいだから言っておくが、洞窟は岩石だらけだ。聞こえないのも無理はない。
Ion-2: 例の施設に戻ろう。
Ion-1: 気でも狂ったか?
Ion-3: 絶対に嫌です。
Ion-2: この場所で何かあるとしたら、それはあそこだけだ。覚えてるだろ? あのコンピュータ。自信を持って言える、何か使えるものがあるはずだ。
Ion-1: ダメだ。余りに危険すぎる。
Ion-2: だから? ここで指を咥えて何もせずに待ってたって約束されるのは死だろうが。
Ion-1: サイトから救援が向かっている。施設に戻ってしまえば──
Ion-3: もう限界だ!
<スーツを脱ぎながら、Ion-3が痛みによる叫び声を上げる。>
Ion-1: 何を考えている、エド? その耐熱スーツを──
Ion-3: 油が入り込んだときにスーツが焼けて穴が開いたんだ。今度はスーツが皮膚に擦れて、僕は生きたままに焼かれてる!
Ion-2: おい── こりゃ酷いな、エド。お前、まるで茹で上がりやがったロブスターじゃねぇか。
Ion-3: ここは地獄です。生きたまま僕は煮られてる、皮膚は真っ二つに裂けて、頭から爪先までこんな、こんな最悪な、ニキビだらけで!
<激昂したIon-3の叫び声とともに複数の破裂音が鳴る。>
<この時点で通信が断絶する。>
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: ──至急の状況報告を要請する。こちらの耐熱スーツ2着が損傷している。直ちにゼン-13を派遣してくれ。喫緊の医療支援を受ける必要がある。
Ion-3: もうダメだ…
Ion-1: 繰り返し、救援作戦の状況について、至急報告を要請する。
Ion-2: もういい。俺は施設に戻らせてもらう。
Ion-1: そうはさせない。これは命令だ。
Ion-2: 知ったことかよ。あんたはリーダー失格だ。
Ion-1: ここにいろ、マット。あの施設に向かえば確実に死ぬ。
Ion-2: インターディメンショナルで何を教わったと思う? 革新を起こせ、行動で示せってことだ。
<通信が途絶する。Ion-1が自身の拳銃を抜く音。>
Ion-1: 少しでも動くな。
Ion-2: やれよ。撃て。俺の頭を吹き飛ばしてみろ。
<通信が途絶する。>
Ion-2: あんたにゃできやしない。
Ion-1: 財団は──
Ion-2: 財団が何だってんだよ、ジーン? 財団はあの部門みたいな役人どもの巣窟だ、人のことなんて気にしちゃいない。俺たちのことも気にしない、何も気にかけちゃいねぇんだよ。奴らの頭にあんのは、自分たちのクソにも劣るくだらねぇプロジェクトだけだ。
Ion-1: 引き返せ、こちらに戻れ。すぐにだ。
<通信が途絶する。Ion-2が通信装置を切断する。>
Ion-1: 戻ってこい、今すぐ!
<通信が途絶する。Ion-3が快感の呻き声を上げる。>
Ion-1: エド、頼むから…
Ion-3: 止められないんだ。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-3: 僕たちここで死ぬんだ。
<連続する破裂音。>
Ion-1: 違う。死なない。
Ion-3: 油で皮膚がカラカラに乾いていく。体が蒸発していくのが分かるんです。
Ion-1: 気を持て。
Ion-3: ここは、死体みたいな臭いです。頭が回らない。舌が萎び始めてる。
Ion-1: 口を閉じろ、エド。そして気をしっかり保て。
<通信が途絶する。>
Ion-3: でも──
Ion-1: あたしが今この瞬間にも糞漏らすほどにビビってないとでも、君はそう思ってるのか? サイト-91からは何の連絡もない。今日1日であたしの手持ちの水は全て君に渡してしまった。依然として、何が起きているのか分かりもしない。あたしにだって家族がいる。あたしが死んだことにされてないとでも? 考えないようにしているだけだ。
<通信が途絶する。>
Ion-1: なぜあたしが恐れずにいられるか、知りたいか? なぜうなだれずにいられるか、分かるか?
<通信が途絶する。>
Ion-1: 財団が来るからだ。援軍も投入されている。今この瞬間も、あたしたちの救援に来ている。
Ion-3: でも、もしも来なかったら?
Ion-1: 来るんだ、分かったか?
Ion-3: でも──
Ion-1: 来る。来るんだ。
Ion-3: 僕たち、2人ともここで死ぬんですね。
Ion-1: 違う、あたしたちは──
Ion-3: 上に。
<6秒間の沈黙。>
Ion-1: 嘘だろ。
<画像記録: 洞窟入口の裏手に位置する山腹が写される。空を覆う雲の上方より厚い層を成した油脂が降下し、今や山肌に広がっている。Ion-1およびIon-3の位置へ、油脂の雪崩が急速に迫ってくる。>
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: ──下だ。
Ion-3: でも、さっき言ってた──
Ion-1: さきほど自分が言ったことは理解している。だが、今すぐに谷に入るしかない。
Ion-3: ロープで降りないと。
Ion-1: ここまで生き延びてきたんだ、今さら死ねるか。ロープを取って──
<記録終了>
<記録開始>
Ion-3: 谷が水没し始めてます。
Ion-1: 塔を登るしかない。あそこが唯一の望みだ。
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: ──の上にいる。
Ion-3: 彼が、いるんですか?
Ion-1: マット、そこにいるのか?
<通信が途絶する。>
Ion-1: 接触しなければ。彼は知ってるはずだ、何が起きてるのか──
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: "──光力?" そいつは随分と似ているように思えるな、あの──
<記録終了>
<記録開始>
Ion-3: ──兵器であり胃でもあるって話、あながち間違いでもなかったですね。
Ion-2: 全然、お前の推測なんてクソほども掠りやしてねぇよ。
Ion-1: マットか? ここで何をしてる?
<機械の駆動音。ニキビの破裂音が混じる。>
Ion-2: ここで全部終わらせてやんだよ、全部を。俺たちは──
<記録終了>
<記録開始>
<背後で機械の駆動音が鳴り続けている。>
Ion-1: ──んなことはさせない!
Ion-2: 俺はできるし、やってやる。
Ion-1: テレポーターを使えば油脂の流出は悪化する、それくらい理解しているだろう。
Ion-2: この腐りきった抜け殻同然の世界なんてどうでもいい。俺は出て行く。
Ion-1: 戻れ!
Ion-2: 永遠にさようならだ。
<放電音。Ion-2の叫び声が続き、突如として通信が途絶する。>
Ion-3: 死んだんですか?
Ion-1: 分からない。だが、どこへ飛ばされたにせよ…
Ion-3: ここより、マシなんでしょうか?
Ion-1: 分からない。あたしには──
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: 油脂が2層目まで来ている。ロックは解除できたのか?
<ニキビの破裂音。>
Ion-1: 今この状況にニキビなんて潰してる場合か?
Ion-3: 仕方ないんです! それしか、逃れる方法が──
<記録終了>
<記録開始>
Ion-3: ──登れない!
Ion-1: 頼むから、エド、今すぐ脚を動かせ!
Ion-3: もう僕ら終わりですよ。もう僕は終わってます。半分、消化されてる。
Ion-1: 違う、終わりじゃない。まだ塔を登れる。
Ion-3: こんな状態なのに? 分かってるでしょう、僕は──
<記録終了>
<記録開始>
Ion-3: ジーン、撃ってください。
Ion-1: 何だと?
Ion-3: ここで溺れ死ぬのは嫌です。
Ion-1: エド、まだ行ける。力を振り絞れ。這ってでも脱出できる。まだ抜け出せる!
Ion-3: 見てください、僕の体を。もう動かせやしない。油に絡め取られてる。頼みます、ジーン。トレバーみたいな最期は嫌なんです。
Ion-1: すまない、エド。すまない。
Ion-3: ごめんなさい、ジーン。貴女にやってもらうしかない。
<Ion-1が拳銃を抜く音。>
Ion-1: 目を閉じてくれ。
Ion-3: 覚悟はできてます。終わらせて、頼みます。もう耐えられない。
<無音。1発の銃声が響く。Ion-1が嗚咽しだす。>
<記録終了>
<記録開始>
<力を込めながら、Ion-1が唸り声を上げる。>
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: <囁き声> ──登れ、登れ──
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: <囁き声> ──全て無駄なはずがない。あたしが、見届けないと──
<記録終了>
<記録開始>
<画像記録: 鋼鉄製の円柱内部が写される。以前に確認された複合施設上部の塔内部である可能性が高い。金属製の梯子をよじ登るIon-1の両手が確認される。油脂が円柱上部から筋状に流れ落ち、下方へと滴り続けている。>
<記録終了>
<記録開始>
<Ion-1の叫び声。>
<記録終了>
<記録開始>
Ion-1: <囁き声> もう少しだから。ほら、行け…
<Ion-1が嗚咽し始める。>
<記録終了>
<記録開始>
<Ion-1の過呼吸と泣き声。金属製の床を踏む音が響く。非常に広大な空間にいることが示唆される。>
Ion-1: あ── あれか? あれが──
<泣き止んだIon-1が膝をつく。>
Ion-1: なんなんだ、なぜだ? 全部、お前がやったのか? お前のせいなのか?
<画像記録: 上方を眺めた景色が写される。Ion-1は雲より高い位置にある。積雲の浮かぶ青空が遠方に確認できる。禿げた頭と肥満体型を有する巨人 (全高500km超) が1体、灰色のTシャツを着てハンバーガーを食している最中である。バーガーに齧りついている。大量の油脂が飛散し、口元と衣服を伝って滴り落ちてくる。山頂に蓄積した油脂が雲層の下へと流れだしている。>
Ion-1: 皆死んだ… あたしたち… マット、ジョンセン… エド…
<Ion-1が嗚咽する。>
Ion-1: 皆死んだのは、こんな…
<Ion-1が堪えきれずに慟哭する。>
Ion-1: なぜ? なぜ、こんな──
<記録終了>
これ以降、E-7234内部からの通信は受信されていません。以後1週間にわたり、SCP-7234-2の放出量は通常時の最大5倍にまで増加しましたが、最終的には従来の基準値の約2倍の水準へと減少しました。SCP-7234への更なる侵入調査は禁止されています。
ご機嫌よう、紳士諸君。
本題へと移る前に、評議会の基本姿勢について力を込めて明言させてもらおう。すなわち、如何なる代価を払ってでも職員を救出することは優先事項であるということだ。職員は我々財団にとって最も価値ある資源であるからに、その採用と訓練とには莫大な費用が伴い、それは不可欠のものである。そして、それら費用を繰り返し支払い続ける余裕など、財団は持ち合わせていない。
私の把握するところでは、SCP-7234指定のアノマリーへの侵入調査をIEGが実施している。これもまた私の把握していることだが、財団の最精鋭の無人探査機すら寄せ付けない敵対性をSCP-7234が示していたにもかかわらず、IEGが有人班を投入する判断を下した。刻下の結果として、その予見性の欠如に起因して当該探査班は当該アノマリー内部に囚われ、その回収の試みは全て失敗に終わった。
第一に、探査決定の責任から懲罰を受ける者について、私の裁量を以て懲戒処分済みであることを述べさせてもらう。エージェント・サンダース並びにドナー博士の両名がIEG関連の事案に関与することは二度とないと保証しよう。
第二に、SCP-7234内部での当該任務は公式に失敗と宣言する。我々は求めていた情報の一切を得られなかったばかりか、その過程で何の非もない職員4名を失った。なお、これはO5による指令ではない。これを読む皆の業績に不愉快な汚点を残すこととなるが、あくまで "極めて強い提案" とでも受け取っておいてほしい。
現在、SCP-7234のプロジェクトは驚くほどに大量の資源を消費している。その先に何があると言うのか? 本プロジェクトの資源を投入することで良好な成果が確実視されるプロジェクトは他にも多数存在する。であれば、直ちに当該の資源を配分せよ。
これが侵入調査班の生存者との通信用機器を解体することを意味するとは承知している。しかしながら、現時点で我々財団は彼らを支援し得ない、それはいかなる形であってもだ。であれば、支援があるという幻想を断ち、通信を断ち切ることこそが最も倫理的な行動指針となる。もはや、彼らは自力で対処するほかない。健闘を祈る。
追加の質問があれば私の執務室へと回すといい。