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Author: Yukth
Rating: 0/2
Created at: Fri Mar 13 2026
SCP-7660: Q is for "Questions"
Amitha Sanmugasundaram created by Taffeta
The Thirty-Four Handed Hound (spoilers!) created by Pedantique
特別収容プロトコル
SCP-7660の覗き窓から中を確認すべきではありません。薄茶色の欧州風ミリタリースタイル・ロングコートを着用して目隠しを施された人物複数名が当該収容室へと不定期に訪れることがあります。当該の人物群に関して、A) 7つの関節と7本指を有する・半透明の青色を呈する・人間のものである第三の手が着用したコートの縫製の継ぎ目から突出していること、B) 犬歯がちょうど34本口腔内に存在すること、業務に当たる警備員はこれら2点を確認してください。当該人物群がこれらの事項に合致する場合には収容室への進入を許可し、いかなる状況においても絶対に反応してはなりません。その他のいかなる人物による立ち入りの試みには致死的な武力行使を以て対処する必要があります。SCP-7660の輸送用筐体(クレート)を開封する計画は存在しません。当該物品は常にサイト-19で保管してください。
説明
SCP-7660は出自不明の生物学的実体であり、一辺がおおよそ2mの、オリーブグリーン色をした鋼板補強クレート内に収容されています。一方の面には**怪奇部門****DEPARTMENT OF ABNORMALITIESと、対向する面には生物貨物?**BIOLOGICAL CARGO?_[原文ママ]_と赤色のスタンプで刻印されています。クレートの第3の面に設けられた長方形型の覗き窓からSCP-7660の視覚的観察が可能ですが、これまでの観察では不定の結果しか得られていません。SCP-7660のクレートはその他一切のイメージング技術に対して不透過であることが確認されています。音響分析でも同様に決定的な結果を得ていません。
SCP-7660を観察する試みは視覚的アノマリーにより阻害されています。すなわち、窓を覗き込むと即座に観測者の視点がクレート内部へと転移し、覗き窓の外を見る視点へと転移します。盲目状態の試験対象においては、絹布で覆われた複数の指で顔面周辺を触られるような感覚が報告されています。自動記録されたカメラ映像においては、放射線での損傷に類似した映像劣化により映像が極度に不明瞭になります。
SCP-7660の回収について、現在も調査が継続されています。██/██/██ 04:05 (グリニッジ標準時) 頃、識別標識のない白色のセミトラック2がサイト-19の北側ゲートに衝突しました。運転車両は横転した後に初めて出火しましたが、貨物車両は輸送中のいずれかの時点で炎上していたとみられます。当該の貨物車両から損傷のない状態で回収された唯一の物品がSCP-7660のクレートでした。運転車両に閉じ込められていたトラック運転手は現場の対応要員に消火される前に焼死しました。
アミタ・サンムガスンデラム博士による試験から、SCP-7660に食べられることでは現在確認されている死後の帰結のいずれにも至らないことが実証的に示されています。
彼らは1匹の撞拉墲の猟犬スラムハウンドをアミタの追跡に差し向けた。彼女のフェロモンと頭髪の色とがそのスラムハウンドに追跡連携スロットされた。そのスラムハウンドの瞳の色と血の匂いに、あなたはスロットさせられた。スラムハウンドとは何か、自分とは何か、アミタとは何か、あなたは分かっていなかった。空気を求めて ── 息を求めて ── 繊維状の蔓と澱む水から成る泥濘を掻き分け、浮上し、覚醒するまでは。そして、後にサイト-19だと告げられる場所の物置の中の清掃用のモップバケツから、あなたは勢いよく飛び出した。識別できる特徴よりも歯の方を多く伴った声が告げた。どうすれば物置の鍵が開くのかを。どこでアミタを迎撃すべきかを。どこでスラムハウンドが彼女を迎撃することになるのかを。
そのスラムハウンドの名はティエリー・ジリアンだった。その安息の地は決して見つけられない、とある死体から盗まれた名前だった。その血は森の茸の味を催しており、つまりは可食ながら無味であり無毒でもあった。あなたの歯の中にも、あなたの爪の中にも、あなたの髪の中にも、鋼鉄があった ── そのいずれもが、あのスラムハウンドがあなたからの奪取を試みるであろう箇所だった。そのいずれもが、その過程であなたがスラムハウンドを焼却できる箇所だった。
名を、次に顔を、更には知識をも、奪われるはずの場所だった曲がり角を曲がったアミタは、スラムハウンドの首にあなたが歯を突き立てているのを目撃した。あなたは彼女の目を見返し、そこに留まってくれと肉を口いっぱいに頬張ったままに懇願した。
彼女は逃げた。食事を終えよと声があなたへ命じた。あのスラムハウンドの喉の最後のひと欠片があなたの胃の中に不快に収まるや否や、その残りを処分せよと声があなたへ告げた。あなたは歯に従い、肩に死体を放り上げ、筋肉のみが知っているかのような経路を辿ってそれを運んだ。心に留めようとした思索の全てが歩行と咀嚼のリズムに弾き返された。
ある時点で、死体を抱えていたのが自分ではなかったことにあなたは気付いた。抱えていたのはコートだった。いつそのコートを身に纏ったのか、ましてや、いつそのボタンを留めたのか? その下にはいったい何があったのか? あなたはボタンに手を伸ばしたが1本の手に払い除けられた。淡い青色をしていて、7本の指を持っていて、その指のひとつひとつが7つの関節を有していた。爪はなかった。その手の持ち主が、同じように細長く生気の失せた青い腕の1本が、コートの下から突き出ていた。
結局、あなたはボタンを外す気はないと決め、そして周囲を観察しようとした。微かな色彩も個性も文脈も、一切を排することを意図して入念に選ばれた無彩色のタイルと蛍光灯の照明とが並んでいた。全ての廊下に表彰盾を収めた壁龕が並んでいた。その文言を読もうとどれだけ試みても、あなたの目は滑り落ち、あなたの足だけが動き続けた。
声が再び噛みついた。あなたの脚が他のあなたよりも先にそれに従い、防弾胴着ボディアーマーを着た2匹の動物の方向へとその場で向きを変えた。動物たちの背後には1枚の何の表示もない扉が立っており、それは中に進むように声があなたへと求めた扉だった。身をよろめかせながらあなたが近づくと、2匹は銃を構えた。
動物たちの管理者ハンドラーが、恐怖から生まれた明確な目的意識を帯びて、あなたの視界へと歩み出てきた。下がれと彼女が2匹へ命じた。彼女の襟元の徽章を確認するまでもなく、2匹が彼女に従うことをあなたは理解していた。そして、彼女があなたに従うことになることをも。
声があなたの舌を掌握した。それは管理者に合言葉コードワードを告げ、彼女は扉を開けた。あなたの口の中には余りに多くの歯が並んでいた。余りに多くの犬歯が並んでいた。
部屋の中央には色があった。オリーブ色に塗装された鋼板の上に鮮やかな赤色のインキで印が付けられていた。その刻印の上にある隙間から一対の虹彩異色オッドアイの瞳が覗いていた。あなたの眼だった。
何かがおかしかった。それについて思惟するに足る身体の制御権をあなたは持っていなかった。あなたは輸送用筐体クレートの内から外を覗き、コートを纏った何かが、耳の尖った死体を1つ肩に担いだまま、足を引き摺りながらこちらへ向かってくるのを見ていた。
あなたは、自分が自分にスラムハウンドを食わせるのを見ていた。
そしてあなたは死んだ。
あなたが次に目を醒ましたとき、それは自分ではない何者かの舌の向こう側にいた。アミタはその口を覗き込みながら、あなたがあのスラムハウンドにしたことを語っていた。彼女の口から語られると、それは一層酷い内容に思えた。彼女はあなたに ── あなたが何者であれ ── 説明を求めていた。女とコートとの両性体レービスに自分の同僚が食われているのを目撃する羽目になったのか、その理由を。
あなたは部屋内を見渡した。最初に生まれ出てきた物置よりも暖かかった。右側に置かれた1台の木製デスクは使い込まれていることが瞭然であり、柔らかな革張りのソファにはアミタが腰掛けており、エンドウ豆色の羊毛張りの椅子はあなたが背を預けるために置かれていた。あなたに安心させられるのを彼女は待っていた。
あなたの口は歯を伴った声を解き放った。アミタの両目は眼窩から零れんばかりに見開かれ、力む両手は椅子に食い込んだ。それは、喉を引き裂かれる直前のスラムハウンドがあなたに見せた表情と同じだった。
あなたはアミタの喉を引き裂かなかった。見知らぬ舌と馴染みある歯を擦り合わせて声が鳴り、あなたを彼女の奉仕へと誓わせた。あなたの一部分は抵抗したが、残る部分が声に従うよう押さえ込んだ。彼女の手は開かれるように歯に強制された。それと同じく、彼女のその薬指を血が出るまで噛むようにあなたは歯に強制された。あなたの口はその中に何があろうとも無菌のままだった。
他にも唱えられるべき文言が存在した。起草されるべき契約、達成されるべき目的、結節されるべき連結があなたの指揮命令系統に存在した。あなたの喉からそれらが現れるたびに、あなたの意識はその言葉の一つ一つの上を滑っていった ── アミタの言葉だけがあなたにとって意味のあるものだった。肉体を持たぬ歯がその事実を保証していた。
あなたたちは共に部屋を出た。あなたたちの喉を切り裂こうと1匹のスラムハウンドが外で待ち構えていた。
あなたではない何者かの血の中であなたは溺れていた。表面はあなたの頭の上の何処かにあり、あなたはそれを掴もうと爪を立てた。
7本指の青褪めた手が1本、裂かれたあなたの頸静脈から捩じれるように現れた。その手が、アミタに向かって伸びるスラムハウンドの手首を掴んだ。骨が折れるまで捻り上げ、スラムハウンドの砕かれた握りこぶしからナイフを奪い取った。そして刃をスラムハウンドの顎へと下から突き上げた。
続いて、あなたの頸部の裂け目を通って、ナイフを必死に握りながら、あなたの両手が這い出てきた。かつてのあなたの肉体は剥かれ、裂かれ、弾き飛ばされながら、あなたのコートはあなたを引きずり出した。息もできないほどに少しずつ、一寸ずつ、スラムハウンドがかつてのあなたの動脈に付けた裂け目を通って。
そのスラムハウンドが死亡したことをあなたは念のために確認した。それから、アミタが自分自身の血を浴びていないかを確認した。それからあなたは初めて息を吸い込んだ。自分のものでない何者かの血をあなたの肺から吐き出した。
青い手があなたのコートに付いた洞穴のように深いポケットの何処かからティータオルを1枚取り出し、アミタに差し出した。アミタは躊躇いながらタオルを受け取り、まるでそれが生きて動き出すのではないかと訝しんで見つめた。あなたはスラムハウンドの死体を目に遣り、動き出さないことを確かめた。
あなたがアミタへと向き直ったときも彼女はまだタオルを握ったままでいた。あなたはそれを自分の手で ── 日に焼けた、5本指の、血に濡れた手で ── 受け取り、彼女の顔から血肉と涙とを拭った。タオルはあなたのコートの中へと消えた。次に彼女が必要とする折には清潔な状態で現れると思われた。
あなたの視界は肩に担がれたスラムハウンドにより遮られ、あなたとアミタの感情は互いから隔てられていた。あのクレートの前に立つまでそれは続いた。あのクレートの隙間へと、スラムハウンドの砕けた手足を1つずつ押し込んでいた。貪られたように食事が啜り込まれている最中にも、あなたはあのクレートの内側の何者かの目から視線を逸らし、アミタの瞳を見つめていた。
彼女の瞳は茶色をしていた。どういうわけか、今に至ってそのことに初めて気づいた。あなたの頬は熱を帯びた。アミタに渡すクリップボードとペンを青い手に持たせて、コートが救い船を出してきた。何が書かれているのかをあなたは彼女に尋ねた。彼女は見せたが、あなたの意識はその言葉の上を滑っていった。
クレートの中のそれが噯気ゲップを吐いた。アミタは眼を見開き、クリップボードに何か書きだした。両腕をあの隙間へ差し入れろとあなたの両耳の中で歯が命じた。あなたは従い、切断された神経が軋み焼ける感覚を待ち、両腕の断端を引き抜いた。彼女は顔色を悪くした。
コートが彼女に嘔吐用袋を1枚差し出した。彼女が袋を使用している間にあなたの残りがあのクレートの中に入っていった。その過程は終始痛みを伴った。
スラムハウンドの1匹が浴室で彼女を待ち構えていた。あなたは先んじて攻撃を行い、排水口に突き上げた青い拳をスラムハウンドの脚に巻きつけた。ひとたび強く引くとスラムハウンドの鼻梁がシャワー室の尖った縁へ叩きつけられた。あなたの残りは苦悩と苦痛に満ちた排水口から少しづつ這い出た。さながら深海底に敷かれたパイプを通過する1匹の蟹のように、吸い戻されないようにスラムハウンドの足首を必死に掴んだ状態で這い出た。排水の水は石灰の滓と毛髪とを孕んでいた。
あなたが便器でスラムハウンドを溺死させている最中にアミタが浴室へ入ってきた。その方が血は少なくて済む。あなたが視線を上げれば彼女は裸だった。青い手が即座にあなたの目を覆った。スラムハウンドに残されていた肺の空気が哀れにも便器の中でブクブクと泡立った。
彼女は溜息をつき、シャワーを終えるまで後ろを向いているようにあなたへ命じた。あなたは覗かないように最大限に努めた。水を吸ったスラムハウンドの肉の処理にあなたの歯は没頭していた。
あのクレートへ向かう道すがら、あなたの肩に担がれたそれがピーター・デ・フリースという名であったことを彼女が告げた。その名はあなたにとって何の意味も持たなかった。その名の以前の持ち主と彼女はほぼ十年間を協働していたらしかった。かつてピーター・デ・フリースと呼ばれていた死体がどこにあるのかを問われたとき、あなたは答えることができなかった。
あのクレートの中にスラムハウンドを食わせる直前となって、そのまま待つようにアミタがあなたへ命じた。彼女はポケットから目隠しを取り出し、あなたの目を覆うように結び付けた。青い手がそれを手助けした。彼女の命令で、あなたは隙間へと死体を押し込んだ。そしてあなたは中を覗いた。
それは手を伸ばしてあなたに触れた。触れたのは手ではなかった。手というものは明確な形態を持つ。骨と筋肉から成る。あなたの眼を弄び、あなたの鼻と戯れ、あなたの唇を撫でたのは、上質の絹布で縫い上げられ、砕かれた歯が複数詰め込まれた趾行性の袋が幾つも連なったものだった。その中で腐敗しゆく歯髄の臭いが感じられた。
あなたはティエリー・ジリアンの歯の臭いを嗅いだ。ピーター・デ・フリースの歯の臭いを嗅いだ。あなたが名前を知ることも能わないが悪臭で分かる歯の匂いを嗅いだ。
その後、目隠しを外し、隙間から視線を逸らしたまま、あのクレートがあなたへ手を伸ばしたとき何を目にしたのかをアミタに尋ねた。
何も見えなかった。
あなたの肉があのクレートに咀嚼されていく最中、あなたの歯もあの中を満たすこととなるのか、そのことに最後の思考は向けられた。
生活は一定の型へと収まった。彼らはスラムハウンドたちをアミタへ仕向け続けた。あなたはあのクレートへスラムハウンドたちを食わせ続けた。アミタはクリップボードに書き続けた。
あなたが死んだとき、火炎と金属の夢を見た。生きながら焼かれている最中、あなたの手の届かない何処かにガラス窓があった。あなたが生きているときには、同じ痛みを抱えながら、次々に訪れるスラムハウンドたちを迎え撃った。
第7のスラムハウンドはアミタのコーヒーに毒を盛ろうとした。あなたはそれを先に飲み、そのままスラムハウンドにキスして双方の口から溢れ出た内臓混じりの泡を混ぜ合わせた。その後、アミタがコーヒーにはミルクだけを加えて砂糖は加えないことを、アラビカ豆を好み1日に7杯のエスプレッソを飲むことを知った。青い手は彼女のためにエスプレッソを淹れることが驚くほどに上手かった。
第17のスラムハウンドはアミタを爆殺しようとした。あなたはその爆弾で自らが四散することを受け入れた。その後、あなたはスラムハウンドを見つけ出してバラバラに引き千切った。爆発があなたに刻み付けた模様と正確に同じ形となるよう、スラムハウンドの肉と骨を注意深く剥ぎ落とし、その余りをあのクレートへ投げ棄てた。あの類のメッセージを送ることには精神浄化カタルシスが伴った。たとえ、その受け手がいないとしても。
それ以降、あなたはアミタの朝のジョギングの常連となった。彼女は朝食前に3キロメートルを走った。あなたはその傍らでゆったりと走り、松林の光景とモズの囀りを自らに取り込みつつ、アミタへの特攻突進カミカゼを試みるスラムハウンドたちを道中から取り除いた。周回コースの頂点には小さな池が位置しており、あなたたちはそこで足を止めた。時にはアミタが池の亀たちを指差し、時には青い手が彼女よりも先に亀たちを指差した。
第23のスラムハウンドはまずあなたを殺そうとした。スラムハウンドがあなたの首を噛み破るよりも前に、あなたの歯があなたの耳に齧り付き、あなたはアミタの寝室の床の上で目を醒ました。あなたは3本の手でスラムハウンドの喉を締め上げ、四肢を麻痺に陥らせた。それでもなおスラムハウンドの吐息はあなたの顎に熱を残していた。
目覚めたアミタが、スラムハウンドを肩に担いで部屋から出ていくあなたを見つめていた。コンクリートの忘却牢へと声があなたを導いた。中には椅子が1脚と工具でいっぱいのトレイが1つ置かれており、どちらもがスラムハウンドに使用されるものだった。監督者たちが何処からスラムハウンドを差し向けているのか、それを突き止めるために使用されるものだった。
いかなる手段を講じてもそのスラムハウンドが決して話すことはなかった。悲鳴のみだった。望み薄と理解しながらも、スラムハウンドの監督者たちがあなたの監督者アミタを殺そうとするのを止めることをあなたは望んだ。青い手はあなたのポケットを冷鉄で満たし続けた。
なぜ彼らがスラムハウンドを自分に差し向け続けるのかをアミタは尋ねた。彼らが何者か。あなたが何者か。あなたのコートは力なく肩を竦めるしかなかった。それを語れるのはあなたの歯だけだったが、歯は茸の風味を帯びた肉の処理に没頭し続けていた。
第25のスラムハウンドの頃にはアミタは睡眠薬を服用し始めていた。毎夜、睡眠薬が混入物のないものであることをあなたは確認した。そして、燃え立つ地獄のガラスの床へと戻っていった。
第30のスラムハウンドの後、彼女のベッドの中であなたは目を醒ました。あなたたち二人をコートが覆い隠していた。あなたの口はその中に何者があろうとも無菌のままだった。
ボタンを外したあなたがどんな姿をしているのか、彼女は言わなかった。あなたもまた訊かなかった。
第34のスラムハウンドの頃には、あなたのコートがあなたたちを包み込み、あなたの腕はアミタを包み込んでいた。組み交わされた青い手と彼女の手の間には拳銃が挟まれていた。強迫性で制御されたあなたの鼓動はバルビツール酸系薬物で調整された彼女の呼吸と同期していた。
何匹ものスラムハウンドたちよりも先にあなたが噛んで以来、彼女の薬指は出血を続けていた。
寝室の入り口であなたを嗅ぎ回るスラムハウンドの気配を察知し、スラムハウンドの魂の座コックピットを切截離断ロボトミーすることを意図した半弾倉連射法ハーフクリップでその頭蓋をあなたは撃ち抜いた。そして、あのクレートに対する疑問を抱きながら身を起こした。
あなたが廊下を進む最中にもあなたの歯は疑問を抱いていた。自らの保護対象と枕を共にしているとは、いったい何をしているつもりなのか? 自分を婚約させたのは歯の方だとあなたが指摘すると、青い手が薬指を揺らして見せた。どちらかといえば、この強制的な婚姻の割を食っているのはあなたの方だった。
あのクレートの部屋の前に立つ豚たちが銃を構えた。豚たちに向かってDAMMERUNGクラスの認識災害をあなたはひと吼えした。豚たちが利口であったのならば、近くの記憶処理部まで駆け込んでいたはずだった。そうでなければ、そもそもあなたの声を警備する任に就くべきではなかった。
豚たちはあなたからの突発的な適格性審査を驚くほどの速さで合格した。あなたの歯は電子錠の入室コードを吐き出した。シューという音を立てながら扉が開くのと同時に、青い手があなたの両目を覆った。
あのクレートが手を伸ばしてあなたを掴んだ。絹布に包まれたエナメル質の欠片が青い手の甲とあなたの手の甲に食い込んだ。あなたの足が床と離れかけているのを感じた。
自らの行いについて弁明する気があるのか、あのクレートがあなたに問いかけた。アミタに求められたまま応じたのだとあなたが答えるとコートが肩をすくめた。彼女からの頼みに従ったにすぎなかった。
もっとも、それを楽しんでいなかったと言えば嘘となる。
絹布の指が締め付けを強めた。絹布の下の歯があなたの皮膚に食い込んだ。革の部分にも、そうでない部分にも。
あなたの回答を検討してあのクレートが擦り音を立てた。いずれにせよ、その行いがなければ向こう十年、アミタは褥を重ねることはなかったはずだ。とはいえ、この問題を処理するのに簡便な方法はある。あの博士が自分の犬に恋するなど、断じて容認できはしまい。いつの日にかその犬は死に、二度と戻ってこないのだから。
それが今日か? あなたは尋ねた。あのクレートが検討した。
おそらくは違った。少なくとも、あの優秀な博士はより上等な肉を見分ける目を持っていた。それでもなお、仮にあなたの歯が自分の猟犬ハウンドたちの1匹と寝られるのなら、あなたも選ばれていたに違いなかった。時宜を見計らったあの奇襲を退けられる可能性が最も高かったのはあなただったのだから。
青い手があなたたち二者の間に割り込んだ。皮膚に食い込んでくる歯髄を伴った絹布の指と自身の指を絡め合わせながら、会話の間へと這い進んできた。難解な身体言語を通じて雄弁に主張した。
いったい、あのクレートは何をアミタに望んでいる? スラムハウンドたちはなぜ彼女の死を求めている? 彼女は常に何を書き留めている? そして、あのクレートはなぜあなたを食べ続けている? 持ち主の頼れる青い右手として働く以上、持ち主を悩ます左手を知る必要がある。
絹布の指は退くとともに、その跡には血が滲んだ。完全に空調制御されているが滅菌されてはいない収容室の空気に曝されて、あなたに残された傷のひとつひとつが灼けるように痛んだ。あなたは歯を強く食いしばった。それと同時に歯は自分たち同士で擦り音を立てた。
一理ある。
目を開いて正対するよう、あのクレートがあなたへ命じた。考え込んだ青い手はあなたの両目を強く押さえ続けていた。やがて、あなたの目線があのクレートの隙間の高さに並ぶと、手はゆっくりと慎重に退いた。
内側を覗き、そして理解した。
死後の帰結が複数存在することをあなたは既に知っている。そこには旅路があり、到達点がある。私はそのいずれでもない。
私は管だ。意識の彼方に位置する真なる実在へと通じながら、そこから帰る経路そのものだ。むかしむかし、その管々には免疫機構が備えられていた。それを乗っ取る手段を私は見出した。
アミタはそれをほとんど理解している。既に、私よりも彼女の方が私という実在について多分に理解している。私の意識における実在の全容を彼女が解き明かしたとき、私は彼女を呑み込むこととなろう。彼女は、ただひとつの、混じり気のない魂の無窮なる顕れとなろう。その過程で私たちの誰しもが滋養されることとなろう。
あの撞拉墲の猟犬スラムハウンドたちの… 監督者たちは、実在性の知覚を侵害するものと私の存在を見なしている。彼らは、既に私が在る物ではなく、やがてアミタが為り得る物を恐れている。彼らの誤った観念を正してやることに意味は見いだせないが、彼らを丸呑みすることは未だ叶っていない。ゆえに、彼らの資源を私の資源へと再循環することで私は済ませている。あなたを身に纏うその猟犬のように。
それでもなお、この変容を実現する意思があなたに伴わないのであれば、あなたを作戦より除外して別の場所へ再配置しよう。
あのクレートから一歩退き、あなたは目を閉じた。そして考えた。7つの関節と7本の指を伴った青色をした細長い手が34本、あなたのコートの縫い目を引き裂いて現れ、一斉に中指を立てた。
あなたが食われている最中にも中指は立てられたままだった。
あなたの歯はこの状況を快く思わなかった。もし可能であるのならば他に猟犬ハウンドを遣わしていただろう。しかし不運にも、この仕事を任せられると信じられたのはあなたただひとりだった。
何もない荒野の真っ只中にあるガソリンスタンドを経由するように彼らはあなたを送り込んだ。ディーゼル燃料の最後の数滴を絞り出していたトラック運転手は、給油ノズルから押し出されてきたあなたを見て尻もちをついた。あなたは振り返り、彼を見下ろした。呆けたように口を開き、苦しそうに右手で胸を押さえ、感覚器も運動器も麻痺したように左手は硬直していた。もはや彼ではなかった。それだった。
あなたは燃料に濡れた手をそのスラムハウンドの喉奥へと押し込み、手早く片を付けた。更に2分もするとスラムハウンドの死体は硬直し、青い手があなたのコートの下へと引き込むのに能うだけの状態となった。あなたの胸腔は煮え立つように泡立った。一瞬、風船のように自分が破裂するのではないかとあなたは思った。それから、あなたはゲップを吐いた。骨片が6つと青色をしたトラックの鍵が1つ、地面に飛び散った。
助手席にいたスラムハウンドは振り向き、あなたが運転席に乗り込むのを辛うじて視認した。その直後、喉を刺されてコートの中へと引き込まれた。傷ひとつない鋼の鍵を1つ握った青い手が再び出現した。あなたがミラーを調整する間に青い手がエンジンを始動させた。
運転席後部の格子越しにアミタがあなたのコードネームを呼んだ。青い手が格子の隙間へ指を差し込み、彼女の指と絡ませ合った。バックミラー越しに、燃料に塗れた野生じみた笑みをあなたは彼女へ向けた。
風上からスラムハウンドたちの悪臭が運ばれてきた。まさに死霊の狩猟団ワイルドハントの一群だった。まさしく、何もない場所の厄介事そのものだった。そこからは何が現れてもおかしくないのだから。
何はともあれ、今は白昼だった。何も無い場所の利点とは、そこに身を隠せる場所が存在しないことだった。スラムハウンドたちは月とその女神に仕えていた。あなたのトラックは太陽光充電式のバッテリーと空調装置を備えていた。熱中症で先に斃れることとなるのはスラムハウンドたちだった。
もっとも、それは追いつかれなければの話だった。現代技術とは忌まわしい。人間の脚では熱中症で死に臥せただろうに、スラムハウンドたちは機械の脚々で遥かに効率よく走行した。更に忌わしいことにその機械は水冷式ですらあった。黒曜石のようなガラス質の循環系がスラムハウンドたちの胸部から突き出し、スラムハウンドたちの関節部で屈曲していた。
何はともあれ、あなたには銃があった、それも山ほどの銃が。あなたの手の3本がハンドルとペダルを操った。さらに加わった7本があなたの身体の残りを座席から引き摺り上げ、運転車両の屋根へと運び出した。コートはポケットを探り、鋼板を撃ち抜くに堪えるほどに硬質の歯列を吐き出すレバーアクション式ショットガンを1挺見つけた。
鋼板補強された貨物車両の縁に1匹目のスラムハウンドの指が食い込んだ。あなたはショットガンの鰭に人間の手の1本を這わせて、そして引いた。十数本のシャンパン栓が一斉に弾けたように吼え、その反動を返してもきた。
一瞬だけ、あなたの視線はサイドミラーへと逸れた。スラムハウンドの指先の圧力が抜け、トラックから落下していく様子が映っていた。黒色のガラスと血液でできた空を背景に、砕け散った鮫の歯の欠片が星のように浮かんでいた。
次の瞬間、スラムハウンドは自らの心臓が破裂していたことを理解して死に絶えた。スラムハウンドの死体はトラックのタイヤの下へ落ち、破裂音の一鳴りとともに真っ二つに裂けた。ガラス片を踏んだタイヤがパンクしないことをあなたは祈るのみだった。死んでもなお、スラムハウンドどもはうっとおしいものだった。
空気の中に醜い流れが奔り、どこからともなく現れ、あなたが握る銃身へと尾を引いていた。2匹目のスラムハウンドが虚空から出現し、あなたに向かって撞拉墲の呪術スラムマジックを行使した。光ファイバーケーブルが発煙信号から派生したのと同様に、スラムマジックは古典錬金術から派生したものだった。そのスラムハウンドの命令に従い、ショットガンはそれを握る手ごと ── 原子レベルに至るまで、撞き拉がれた。極小の核爆発が起こり、放射線で水疱化した皮膚の波があなたの腕を駆け上がった。
癌には即時の処置を必要とした。コートはポケットを探り、骨製の義肢1基と異星の怪物からその素材を切り落とした斧1丁、その双方を取り出した。あなたは手の1本を噛み締めた。別の3本が癌に侵された腕を押さえつけた。4本目が斧を振るった。地獄のように痛かった。
モルヒネが別のポケットにあった。また別のポケットにもあった。さらに別のポケットにも。青い手は腫瘍に侵された片腕を切断し終えると、あなたの背後に迫ってきていた最も近いスラムハウンドへとそのまま投げつけた。あなたは血を垂れ流す断端を骨製義肢の基部へと擦りつけて自分の血の味を覚えさせた。そして、あるべき部位に義肢を接ぎ込み、歯が噛み込まれるのを待った。
なおも地獄のような痛みだった。骨製義肢の根本が目を醒まし、無顎の口をあなたの腕の断端に食いつかせた。義肢はヌタウナギのような青色に閃き、警告するように光炎を放った。だが遅すぎた。あなたの血液はすでに内部へ侵入し、カルシウムの触手に接続し、あなたの意思を遂行する7本の指として義肢を操作していた。
血液は凝固し、骨を青い手へと溶着させた。骨の手は自ら割れ、7つの関節と7本の指へと分かれた。偽物の関節を屈伸させるたびに走る突き刺さるような激痛をあなたは無視し、より爆発的な物を求めてポケットをまさぐった。
空気の臭いが一変した。異常性廃棄物が洗浄された消毒臭。遠方にあるサイト-19の臭い。そこへ別の悪臭が混じった ── 濡れた獣毛の臭い、蒸気を上げる真鍮の臭い、金属の上で焼かれる肉の臭い。スラムハウンドの群れ特有の臭気だった。さらに5匹が接近していた、それぞれが黒曜石の循環系と蒸気を上げる真鍮の脚と融合しており ── 捨て身であることをあからさまに示す、冷たく燃え上がる鉄で造られた鼻面マズルと一体となっていた。あなたを八つ裂きにするにはうってつけだった。
湿気と真菌の胞子とで空気は重みを増した。圧倒的で集団的な殺戮の、噎せ返るような嫌悪をもたらす協和音が高速道路と地平線との間を覆い尽くしていた。あの忌々しいサイトはどこだ?
3匹目のスラムハウンドの深紅のマズルが暗闇を切り裂いた。あなたは屋根を転がり、運転席のドアにぶら下がりながら銀と鉄を求めてポケットを探った。青い手は銀ドル硬貨の棒金ロールを数本握り締めた。
赤レッドの爪がトラックの側面部に食い込んだ。スラムハウンドが爪を立てて貨物車両に這い上がる最中もあなたたちは睨みを交わしていた。銀貨はあなたのコート内部へと消失し、張り詰めた数秒の間もあなたの内側で転がり回った。
レッドが荷物車両後方から運転車両へと跳びかかった。あなたは骨製の拳を振るって迎え撃った。双方の弧が頂点に達した瞬間、銀貨のロールが骨製の手の中に再出現し、そのままスラムハウンドのマズルへ叩き付けられた。
レッドの頸関節は空中でレコード盤のように折れ、捻じれた。スラムハウンドは力の抜けた人形のようにアスファルトへと落下し、タイヤに轢かれて潰れて弾けた。骨の手が手品でも披露するかのように指を振ってみせた。あなたは呆れた表情を返し、運転席へ身体を戻した。
残るスラムハウンドは4匹。
あなたは目より先に鼻でスラムハウンドたちを察知し、それでもなお追跡されていることを感知した。運転席の四隅それぞれからスラムハウンドたちが急襲してきた。あなたはコートの中身を全て引き出し、炸裂させた。2匹は血の花火を上げて紙のように平らになった。残る2匹は運転車両両側のドアを引き剥がし、残ったあなたの手足へ噛みつき始めた。あなたはハンドルを捌きながら、あなたの喉首を狙う花の刻印が施されたマズルたちを捌いた。
フロントガラスの中央からアルミの山脈のようにサイト-19の壁が浮かび上がってきた。無菌的で光を照り返すサイト-19の外観に接近するにつれて、立ちはだかる霧は打ち払われるように散っていった。スラムハウンドたちはサイトを視認し、その構造に使われた冷鉄を感じ取った。スラムハウンドたちは怯み、アミタに主導権を渡した。
あなたとアミタは協働した。あなたがスラムハウンドたちを手足から引き剥がす間に、アミタが運転車両と貨物車両とを構成する鋼材へと一連の撞拉墲の令達スラムコマンドを発した。噛み鳴らす犬歯を備えた口が運転車両に開かれ、そこに落ちたスラムハウンドたちを呑み込んだ。荷物車両の床面に第2の口が開かれ、荷物車両から見下ろすアミタの視線の前を通過してスラムハウンドたちは更に落ちていった。そしてアスファルト路面で叩き付けられ、そのまま18トンの荷重を受けたタイヤの下で粉砕された。
破裂したスラムハウンドの欠片に刺され続けたことに耐えきれず、ついに限界に達したタイヤが激しい音とともに弾けた。その衝撃で運転車両はあなたの制御を離れて恐慌運転テールスピンに陥り、貨物車両を横滑りさせながら引き摺り、逆に貨物車両の向心力で運転車両は引き回された。衝突を受け入れること以外にあなたができることはなく──
あなたの眼は破裂した。あなたの腕が引き千切れたあなたの肢が燃えながら突き抜けたあなたの皮膚が垂れ下がった──
あなたの歯がスラムコマンドをひとたび唱え、即座に恐怖や痛覚といった不都合な大脳辺縁系の部位を吹き飛ばした。ガソリンと鋼材と剥き出しの配線との絡まりの下で、あなたは閉じ込められ、身動きも取れず、生きたままに燃えていた。燃えながらも生きていた、だからあなたはまだ奉仕できた。あのクレートは問題ないだろう、あのクレートについての記録をずっと前に確認したが、以前にも同じことをやっていたし ── アミタはどこだ?
外の光を探して捻るたびにあなたの首は軋んだ。あった! 赤と青、財団のサイレン。あなたは腕の1本1本を順に動かし、引き千切られていないものを、骨片の袋になっていないものを、神経が未だ機能しているものを探し ── そして、最初に動いた手で光の方へと身体を運んだ。肋骨より下の感覚は完全に失われていたため、あなたは見ようともしなかった。
必死にあのクレートへしがみつくアミタを見つけた。あなたが感じているのと同じくらい酷い有様だった。辛うじて歩けそうな状態にあったが、その状態が長く続かないことを脇腹の深い裂創が示していた。あのクレートは無傷だった。依然としてあなたの皮膚は燃えているようだった。
あなたの脚が燃えている、アミタは淡々と指摘した。
それならば説明がつく。
あなたとアミタはともにあのクレートへと背を預け、目を閉じた。絹布の袋に包まれた歯があなたたちの皮膚の上へと被さり、あなたたちの処遇を思案した。スラムハウンドは全て死んでいた。あのクレートは無事にサイト-19へ戻っていた。そして、その過程でアミタは生涯の大仕事をついに成し遂げていた、まさにあなたの歯が予見していた通りに。
残された選択はただ1つだった。円環を完成させること。アミタは15分以内に失血死する見込みであり、彼女の魂がどの地獄へ投げ棄てられるかは既に数学的に証明されていた。あるいは、永劫の拷問の循環から自身を切り離し、新たな存在様式を見出すことも彼女にはできた。
あなたはあなたの歯を酷く憎み、口の中で砕き潰してしまいたいとさえ思った。あのクレートに対し、アミタは自身の思うところをそのままぶつけた。それを聞いたあのクレートは嘲るように擦り音を立てた。
炎はあなたの胸にまで達していた。呼吸は一仕事だった ── 痛むわけではない、ただできなかった。足の中指だけ動かそうとするようなものだった。あなたの肺はそれをしようともしなかった。アミタの顔色は蒼白に変わりつつあった。彼女の血液の大半が橙色の輸送用ジャンプスーツに染み込んでいた。あのクレートがあなたたちの上に影を落としていた。
死後の生はこれしかなかった、他にはなにもなかった。アミタは溜息を吐き、出血している薬指を振って見せた。アミタは自身の両手であなたの人間の両手を包み込み、あのクレートに自分を食わせろとあなたに命じた。
最後まで付き従うとあなたはアミタに約束した。
あなたが死んだとき、自分の内側を抉り穿たれる夢を見た。巨大で7本指を伴った手が1本、あなたの腰であなたを割り開き、あなたの内臓の1つ1つを掻き出し、そしてあなたの骨格を鋭い一息で引き抜いた。残されたのは1つの頭蓋と多数の指だけであり、コートの縫い目だけでそれらはひと纏まりに繋ぎ留められていた。やがて、手はあなたの内側へと潜り込み始め、あなたの骨格の内側を通り抜けて昇っていき、あなたの骨格_となり_、筋肉_となり_、血管_となり_、あなたの大脳新皮質へと中指と薬指を深く突き立てた。
次に目を醒ましたとき、手は赤くなっていた。歯を伴う声の味も変わっていた。あなたは以前、その歯を舐めたことがあった。アミタが勝ったのだ、彼らはそう告げた。曰く、前任の監督者オーバーシーアと彼らが呼ぶ物を取り込み、アミタは支配的な人格となった。あのクレートと対話するべくその許へとあなたが再び赴くと、話はそれだけに留まらないとアミタの声で語られた。薬指の強制が如何に機能するのかを説明しようとさえ提案してきた。
その話を赤い手は真剣に聴いていたが、どうしても気に掛けることがあなたにはできなかった。答えを求める疑問は何一つとしてなく、ただ何かを狩りたいという衝動だけがあなたにはあった。そして、アミタの猟犬ハウンドとして在るよりもアミタの虎で在ることをあなたは望んだ。