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Author: C-Dives
Rating: 13/13
Created at: Wed Nov 12 2025
特別収容プロトコル

発見地点におけるSCP-186-A。
SCP-186-AはDEEPWELL 5の高セキュリティ管理下にある収容庫に保管されています。SCP-186への接触はレベル5/186資格を有する職員のみに制限されます。SCP-186-Aは常時監視され、その状態や構成のいかなる変化もDEEPWELL 5の現場監督者に直ちに報告されます。
制御されていないSCP-186-Aの活性化が疑われる際には、レベル14ミーム耐性評価を有する現地職員が即時介入する必要があります。これらの職員がSCP-186-Aの無力化に不十分である場合、DEEPWELL 5の浄化が承認されています。
SCP-186-Bの周囲には境界線が設定され、不発弾が存在するというカバーストーリーの下に、民間人の立ち入りが禁止されています。サイト-171の巡回警備員は設定された境界線を厳重に監視し、異常な活動を目撃した場合はサイト-171の監督者に報告するものとします。
843点のSCP-186-C実例はサイト-171の厳重収容庫に保管されています。研究チームや境界線巡回隊によって収集された追加の実例は、分析のためにSCP-186研究チームへと引き渡されます。これらの実例の輸送作業は、承認を受けた物流チームのみに制限されています。
説明

SCP-186-B。

SCP-186-C実例の1つ。
SCP-186は、20世紀初頭のフランスの解剖学者であり、第一次世界大戦に軍医として従軍したジャン・デュラン博士と関連する複数の異常現象の総称です。
SCP-186-Aは、オーク材で作られた高さ約3.9mの棺であり、内部には人間の知覚を改変する目的で設計された一連のメカニズムが収められています。小さな真鍮の銘板が棺の前面に取り付けられ、次のように記されています。
深夜零時に開け。Ouvrir à minuit.
- デュラン
SCP-186-Aが機能を発揮する仕組みは現在不明です。主にその機構の複雑さのため、SCP-186-Aの内部構造はほとんど解明されていません。SCP-186-Aはいかなる方法においてもX線撮影で透過できず、過度のX線干渉はSCP-186-Aの起動メカニズムを作動させる危険性があります。SCP-186-Aの内部部品は非常に密集しているため、より奥の構造を探ることは不可能だと証明されています。SCP-186-Aのひび割れた蓋を通して垣間見えるこれらの構造は、鋼鉄の歯車、銅管、組成不詳の液体で満たされたガラスの小瓶、木材と帆布で作られたふいご、滑車、ピストン、その他用途不明の部品による極度に複雑なネットワークです。
起動すると、SCP-186-Aは付近のあらゆる人間を即時かつ重度の緊張性ショック状態に陥れます。記録された事例の7%において、被影響者は即死します。SCP-186-Aが作動している限り、影響範囲は着実に拡大していきます。
SCP-186-Aに曝露した全ての人物は、それ以降いかなる形式の意思疎通も実行できなくなったため、SCP-186-Aが人間の知覚に及ぼす具体的な影響は現時点で明らかになっていません。
SCP-186-Bは、現在のロシアとリトアニアの国境付近、ケーニヒスベルク (現在のカリーニングラード) の北方およそ90km地点に位置する、記録に残されていない軍事衝突の跡地です。1917年7月から8月にかけて行われたこの戦闘では、ドイツ帝国軍がペトログラード (現在のサンクトペテルブルク) に向けて進軍する途上で、統率されていない撤退中のロシア軍大隊を追撃していました。関連する当時の記録では、この戦闘は“ケーニヒスベルク森の戦い”と呼称されています。
ギュンター・フォン・キルヒバッハ上級大将が率いる陸軍支隊Dに所属していた500名以上のドイツ軍兵士は、ケーニヒスベルク郊外の森林地帯で、散在するロシア軍残党と交戦しました。戦闘中、両陣営が異常な兵器 (SCP-186-Cと指定) を無制限に使用した結果、関与した全ての軍人と民間人がほぼ全滅または戦闘不能状態に陥りました。これにも拘らず、この戦闘はペトログラードを目指すドイツ帝国軍の北進をほとんど阻害しませんでした。
SCP-186-Cは、ケーニヒスベルク森の戦いで使用された異常な兵器、弾薬、その他の戦争技術です。収集されたSCP-186-C実例には以下が含まれます。
SCP-186-Bの跡地から回収された書簡は、ハンガリーからドイツ帝国軍に派遣されていた駐在武官のマーチャーシュ・ネメシュが戦闘を勧告したことを示します。この決定は、前述のジャン・デュラン博士が所属するロシア側の抵抗勢力と交戦するにはドイツ軍大隊から著しく離れなければならず、進軍中の主力部隊に大きな後れを取ることになるにも拘らず下されました。現在、戦闘に使用された兵器を供給していたのはデュランとネメシュであり、両名はそれらの有効性を試験する目的で各々戦闘の異なる陣営に身を置いていたと考えられています。
補遺186.1

マーチャーシュ・ネメシュの軍事肖像写真。

ジャン・デュラン博士の既知の唯一の写真。
回収されたマーチャーシュ・ネメシュとジャン・デュラン博士の書簡
以下の書簡は、20世紀半ばのオーストリア貴族かつオカルティストであったレオポルド・フォン・ホーエンベルク男爵の邸宅から回収されました。男爵は第二次世界大戦中、枢軸国に勝利をもたらし得る“完璧な兵器”の開発という構想に執着していました。彼の収集品にはネメシュとデュランの間で交わされた多数の書簡が含まれており、全て終戦後に財団によって押収されました。
ムッシュ・ル・ドクトゥール・ジャン・デュラン、
どうか、職業上の率直さに免じて、先々週に医療テントで交わした議論を再度蒸し返すことをご海容ください。紛争とは、一方の陣営が - 政治的に、物質的に、道義的に - 再び武器を手に取る力を失った時にのみ終結に至るという小生の持論を、貴殿も覚えておられるでしょう。慈悲が重んじられるのは恐怖が絶対的かつ明白に実証された場だけであると、歴史は物語っています。仮に科学が、長期にわたる消耗戦抜きで迅速にその条件を課す手段を我らにもたらすならば、それらを吟味するのが国政に携わる我らの義務です。流血と飢餓が十年続くよりも、断固たる凄惨な手段を一つ持つ方が賢明です。
貴殿への敬意を表すると共に、今後も断固たる選択肢を擁護し続けることをお約束いたします。戦争とは、その効能を未だ信ずる者たちのみが理解する言語であります。この言語を無用に帰すことを我らの目標といたしましょう。
敬具、
マーチャーシュ・ネメシュ
軍事顧問
ムッシュ・ネメシュ、
お手紙を拝受いたしました。率直なご意見に感謝いたします。私もやはり同様に率直にお答えします。紛争を終結させる単一の行為が、功利主義的な魅力を帯びていることは否定しません。知性は効率性を好むものです。そしてまた、政府の要人らがより迅速な決着を約束する手段を常に選好するという事実も否定しません。しかし、許容できる代償の尺度において、私たちは見解を異にしているように思われます。
あなたは人民を抵抗不能にする術を説いておられる。私は抵抗それ自体を思いもよらぬものにする術を説きます。そこに道義的な相違があり、地図上ではいかに微細に見えても、全てを一変させます。あなたが主張するように、人民を威嚇して服従させようと試みれば、残念ながら、築かれるのは恐怖と沈黙と恥辱に依存する平和だけでしょう。むしろ私は、戦争の代償を万人に明示することを望んでいます - これこそが政治の倫理的文法を変える道です。知識は単純な戦争兵器よりも遥かに優れた平和をもたらす、というのが私の見立てです。
私は科学的かつ人道的な理由から後者を追求します。ムッシュ、私は苦悶を演出したいのではありません。大量虐殺とは自滅的な観念であるという認識を、人々の精神に根付かせることを目指しているのです。
敬白、
ジャン・デュラン, M.D.
補遺186.2
SCP-186-B研究ログ
1923.04.11
南西部3km²の領域において、シカ科に属する生体物質が地中から急速に成長し、粗雑なヒト型実体に近似する形態を取った。成長は19時間後に停止した。構造物群は14日後に自然乾燥し、錆の微粒子に変化した。構造物群が存続している間、この領域を通過する動物は観察されなかった。
1927.01.13
人間が快適と認識する周囲温度が急激に低下して-30°C以下になり、被影響領域内の全人物が灼熱感を体験した。この効果は73分間持続した。
1932.09.02
現地に設置された広帯域受信機が23~41分間隔で断続的な暗号通信を受信した。信号を解析したところ、当時のロシア及びドイツの野外信号規則を同時に遵守しつつ、互いに排他的なタイミング解決法を採用していることが判明した。解読された信号はいずれも現地境界線内の未標示地点を指す座標ペアを表していた。送信源は特定されず、電磁探査も不成功に終わった。送信は72時間後に停止した。
1936.05.30

SCP-186-Bの中で立ち止まり、まだ生きているドイツ兵士の残骸を調べている身元不明人物。
ロシア軍の制服を着用している著しく容貌の損なわれた兵士が、ドイツ軍前哨基地の残骸の中で銃器を探しているとの報告が寄せられた。兵士は拳銃を発見すると、自らの側頭部に数発発砲して頭蓋骨の大部分を破壊し、脳組織を散乱させた。地面に倒れてから数秒後、損傷した頭蓋骨が不規則形状に再生し、彼は再び立ち上がった。兵士は銃器を探し続け、同じ行動を繰り返した。数時間後、前哨基地内の銃器が枯渇した時点で、兵士は森の中に姿を消した。
1941.05.15
バルバロッサ作戦に先立って財団がSCP-186-Bから退避している最中、最大で150m離れた距離から、3~5秒遅れで持続的に職員らを追跡する第二の影が観察された。これらの影は身長や歩調が一致する反面、光を遮らず、写真には写らなかった。当該現象は最後のチームが境界線外へ退出するまで続いた。退避後、影は約12分間静止状態を維持した後、消散した。
1945.10.29
SCP-186-Bの収容体制が再確立された際、財団の巡回警備隊は、全身が多数の腐敗した人間の死体で構築された巨大なヒト型実体が夜間に森の中を移動していたと報告した。当該実体はまだ生存しているヒト生体組織の残骸を回収し、自らの身体に付着させた後、スポットライトから逃走した。
1959.02.19
北東領域に巨大な陥没穴が生じたのに続いて、低周波の呼気音 (0.2~0.5 HZ) が11~14分間隔で穴の中から発せられた。スペクトル分析では人間の発声と一致するフォルマント構造が認められたが、理解可能な言語にはなっていなかった。探査目的で垂らしたロープは30mほど自由落下した後、突如として全体が陥没穴へと引き込まれた。更なる探査試験は行われなかった。
1959.04.02
前述した陥没穴と隣接する領域の発掘調査中、深さ14~16m地点から、23基の密封された木製の棺が発見された。これらの棺には、様々な構造的腐敗状態ながらも依然として生存している人間の身体が収められていた。いずれも、穴を空けられ、老化した腱を紐代わりに通して数珠のようにまとめられた人間の歯 (腱1本あたり歯32本) を複数握り締めていた。歯の形態は青年期から老年期まで多様であり、比較データベースからは該当する情報が得られなかった。棺の内容物の撮影が試みられたが、全て未現像フレームか黒色ネガとなった。特筆すべきことに、1基の棺が行方不明となっているように見受けられた。
1962.07.29
巡回警備隊は、身なりの良い男性が戦場の1つを歩き回り、時折立ち止まってはSCP-186-Cの影響を受けた人間や動物の死体/身体を調べていると報告した。警備隊に誰何されると、男性は振り返って挨拶した。男性の口から上の顔面はほぼ破壊されていた。数秒後、男性の姿は薄れて消失した。
1975.12.13
SCP-186-Bから帰還した調査チームは、領域内で3週間にわたって遭難し、その過程でチームメンバー6名が行方不明または置き去りになったと主張した。外部視点では、チームはSCP-186-Bに2時間しか滞在していなかった。
1987.08.12
複数の観察者が、上空高度約900~1100メートルに216個のパラシュートが出現し、領域中央部から南西方向に向かって漂っていると報告した。飛行機雲やエンジン駆動音は確認されなかった。パラシュートには第一次世界大戦期の設計や索具が認められたが、半透明で、影を落とさなかった。レーダーは反応を示さなかった。19分後、全てのパラシュートが同時に地面に落下し、消失した。いかなる物体も回収されなかった。
2009.03.03
巡回警備隊は、女性と子供のように見える実体が小川沿いを歩いているのを目撃したと報告した。両方の実体が炎上しており、顔立ちは判別できなかった。
補遺186.3

若い女性の写真、身元不明。
フォン・ホーエンベルク邸から回収された書簡
以下の書簡もやはりフォン・ホーエンベルク男爵の邸宅から押収されました。収集品の中でも、この手紙には“かつて人間だったもののよろめき蠢く残骸”から回収されたという説明書きが付随しており、意図された受取人には届かなかったと考えられます。
ケーニヒスベルクの東、プレゴリャ川の近くにて
1917年8月
俺の愛しいアーニャへ、
黄昏とも曙ともつかない光の下でこの手紙を書いている。もしこれが君に届いたなら、例えもう完全には自分の一部らしく感じられなくなっていても、俺の手はまだしっかりしていたことを知ってほしい。俺の声が野原に延々と響き渡るこだまでしかなくなる前に、君にこの言葉を届けたい。
俺たちは今から三日前、君のターニャ伯母さんが住んでいたケーニヒスベルクに程近い森の露頭へと移動した。あそこの村落はもう僅かばかりの名残しか留めていない、俺としても伯母さんの身が気掛かりだ。将校たちは、この地で抵抗する必要がある、ドイツ人が背後から迫っている、ペトログラードを防衛しなければならないと言った。もしかしたら彼らの勘違いかもしれない - どう考えたってこの雑木林はペトログラードじゃないのに、それでも俺たちに守らせようとした。木々を守るための新兵器を俺たちに与えた - 今まで目にしたことも無い武器だった。シュウシュウと音を立て、呻き声を上げるライフル。夜の暗闇の中で赤く光る砲床。俺たちが知りもしなかった数々の恐怖。
「これらが防衛線の維持に役立つだろう」 将校たちはそう言って、次の日の夜明け前には姿を消していた。
彼らは知っていたんだ。
ここの泥は人間よりも見事に戦ってみせる。呑み込まれたものは二度と戻らない。白樺は蝋燭のように立ち並び、風の祈りが響けば首を垂れる。今日、俺たちの戦線は崩壊した - 端から始まって、折り目へ広がり、遂には布からパン屑のように振り払われた。敵は予想よりも早く、静かに、当たり前の装備はほとんど携えずにやって来た。俺たちの銃が応戦すると、他の何かが対抗した - 天上の神様や地獄の悪魔じゃなくて、遥かに恐ろしい別の存在が生み出した、真新しい何かが。
地面は獲物の狩り方を学んだかのように兵隊に襲いかかった。毒ガスが撒かれて、弾丸と銃剣でミンチにされた身体さえも安らかに眠らせようとしない汚れた霧が立ち込めた。あちらこちらで、かつて人が立っていた場所に悪夢を作り出す火花が飛び散る。これでも事実をはっきり伝えているつもりだ。
前に一度書いたフランス人の医者のことを覚えているかい。上品な顎髭と薄い手袋の、物語を聞かせれば煙草をくれるあの男だ。新兵器を配ったのは奴だった。俺たちが息を呑んだり言葉を失ったりしている間、奴はレンズを握っていた。まるで文章を整えるように倒れた兵隊たちを並べて、母親が眠る赤ん坊の様子を見るように手の甲で触った。立ち上がった時も、奴のコートは清潔だった。「これは実に興味深いですね」と、丁寧なロシア語で俺にそう言ったんだ。
もし奴が平時に村を訪れたら、逃げろ。何も持たずに。この焼け野原で、俺はこの世に想像を絶するほど深い暗闇があることを、その深みには人間を装いながらそうでない生き物が潜んでいるのを知った。あの医者はそういう生き物だ。俺たちの目に恐怖が映る時、奴は全く違うものを見ている。俺たちの苦しみは奴の好奇心を刺激するだけだ。
奴の新兵器の一つが、ガラス扉にぶつかる時と同じくらいあっさり俺を仕留めた。金属の味、甘くて重苦しい空気。俺の胸は俺抜きで動き続けるようになった。手はあまりにも敏感だ。紙は雪のように肌を擦り、雪はイラクサのように肌を焼く。腕には小さくて眩しく光る穴が幾つも空いた - 目を閉じても、そこから周りの様子が分かる。俺は変わりつつある。
恐れないでほしい。俺一人だけで君の分まで十分怖がっているんだし、肝心なところはまだ俺のままだから。まともな形で帰ることはできないだろう。荷車は遠いし、脚もまともに動かない。もし誰かが荷物を持ってきて俺の遺体だと言い張っても、駅に受け取りには行くな。父さんには、聖人像はまだポケットに入ってる、ニスは川の氷みたいにひび割れてるけどその顔はまだ優しげだと伝えてくれ。母さんには、薪を無駄遣いしないお茶の入れ方を覚えたと伝えてくれ。兄さんには、ブーツをもう一回りデカいのと替えてもらえと伝えてくれ。ある日、荒れ果てた戦場に、君の手のことだけを考えていた男がいたのを、その手には男が求めたあらゆるものが収まっていたのを、どうか忘れないでくれ。
君のリボンは左のブーツに入ってる。もう一つ約束しよう。どこへ行くことになろうとも、君と一緒だ。
白樺が風に煽られて揺れている。俺の胸は動き続けている - もしかしたら君譲りの頑固さかもな。誰かが讃美歌とも行進曲とも分からない調べを口ずさんでいるけれど、それぞれの音が勝手気ままな順序で家路を辿る。光が俺を変えてしまう前に書くのを止めようと思う。君は好きなパンを食べて、馬の匂いがする通りに面した窓を開けるといい。もし別な人生を歩む機会が巡ってきたら、そうしてくれ。君は俺にとっての全てだった。
俺が聞いていないと思った時だけ君が囁いていた名前で送る。
君のミーシャより
追伸 もし埋葬できる程度に俺の身体が見つかったら、白樺の根元に埋めてほしいと伝えてくれないか。あの木々は白と黒を兼ね備えながら一体である術を知っている。きっと皆、理解してくれるだろう。
補遺186.4
回収されたマーチャーシュ・ネメシュとジャン・デュラン博士の書簡 (続)
ムッシュ・デュラン、
貴殿の案は学術的な観点からは正当ですが、実現可能性に欠けるのではないかと懸念する次第であります。いずれにせよ、美辞麗句を云々したところで決意は試されますまい。小生は統制された実証試験を提言いたします - 即ち、醜悪なまでに激烈な威力のあまり、目の当たりにするだけでも人民の意志を不可逆的に屈服させるような兵器を、双方の陣営が使用する限定的な戦闘を行うのです。これらの存在が、交戦よりも敢えて武器を置くという選択を兵士らに促すならば、いかに恐るべき手段であれ、相応の武力を以て平和を強制し得るという経験的証明が成立いたします。
単一の監視付き試験のために、そのような兵器の供与を了承してくださるようお願い申し上げます。供与が不可能である場合、代用として許容できる装備を挙げていただきたい。小生が観察者と中立地を手配いたします。フォン・キルヒバッハの北進の現況は、これらの新たな奇跡の限界点を試す絶好の機会となるでしょう。
我らはこの世の大いなる疑問を明らかにし、解答を導くことに心血を注ぐ科学の徒であります。今回、疑問は単純明快です。果たして人間は、己を待ち受ける運命を明確に見通した時、戦いを拒むのか否か。共に答えを見出そうではありませんか。
謹言、
マーチャーシュ・ネメシュ
ドクトゥール、
現地より報告いたします。実証試験は合意条件に基づいて実行に移されました。敵部隊に甚大なる損害を与えた結果、当該戦域における交戦は即時停止に至りました。兵器群が小生の想像さえも超える性能を発揮したことを喜ばしく思います - それらはこの地上にかつて類を見ないほどの圧倒的悪意に満ちた破壊を生み、携行した兵士らは皆、自ら犯した恐怖の所業に涙しました。真に、これ以上の惨禍をもたらす道具は他にありますまい。
しかしながら、小生は - この際率直に申し上げますが - 特定の外部観察者らの反応を予期していませんでした。監督役として一連の経過に立ち会ったフォン・キルヒバッハ上級大将は、全く動揺を見せることなく、職業的好奇心を示しながら事態を注視した後、その効率性を称賛し、自軍への追加配備を要請しました。彼の要請は道義心からの訴えではなく、戦術的優位性を高めることを意図していました。
本件は貴殿に一刻も早くご報告すべきと判断いたしました。貴殿が供与してくださった兵器は、一部の者の目には抑止力ではなく、戦力増強の手段と映るのやもしれません。政界ではこの種の利益を求める声が急速に高まっております。小生自身はこの発見を再検討し、引き続きご連絡差し上げる所存であります。
誠意を込めて、
マーチャーシュ・ネメシュ
ネメシュ、
そうなるだろうと予想はしていました。支配を欲する精神は、支配力を強化するあらゆる手段を称賛する。フォン・キルヒバッハが戦術的優位性だけを見出したならば、それらの兵器は彼に誤解され、時代に誤用されています。
かつて私にも、あなたと同じように、全ての戦争に勝利できる兵器を夢見た時がありました。銃弾とサーベルを廃れさせ、その恐るべき威光に刃向かう者が現れなくなるほどの決定的な働きをする、完全無欠の兵器を。しかし、私が恐れ、静かな場で口にしていたことが、これで裏付けられました。一瞬にして恐怖を与える兵器は、戦場の兵士ばかりでなく、その使用を承認する者たちも苦痛を経験しない限り、権力の道具へと転用されてしまうのです。故に、遥かに大掛かりかつ惨い手段が - 物理的能力ではなく、道義的拘束力の面において、無視できないものが必要です。
それが何を意味するかは今後検討します。一先ず、兵器を可能な限り回収し、フォン・キルヒバッハが要求する稼働状態の複製を全て破棄してください。彼が執拗に食い下がるならば、拒否するか、或いは彼自身を処分してください。あなたに一任します。
— J. D.
補遺186.5
SCP-186-A 初期収容覚書
内部覚書
サイト-17
ライオンズ監督、
あんたの要求通り、例の装置を封印して収容段階に移した。添付資料に処理記録と初期評価が載っている。
もしジュリクソンが蘇生能力者タイプ・グレイでなかったら、分遣隊はあれを停止できる距離まで近付く前に全滅していただろう。移送の手配を終えた後で様子を見に行った。医者が言うにはまだ見たり話したりできるそうだが、もう中身は空っぽだ。あいつはレベル15だった。財団全体で20人以下の人材を、今日1人失った。
棺を最初に開けた哀れなバカ野郎も見つかった。金目のものを漁ってただけのヤク中だった - 床にへばり付くようにして倒れていたよ。町の半分を道連れにしやがった。今、被影響者を冷凍保管庫に移送する作業班が待機中だが、読心能力でもなけりゃ何も得られないと思う - 仮に心が読めるとしても、それが得策かどうか分からない。あれにやられた奴らは、その瞬間に今まで聞いたこともないような叫びを一度だけ上げて、完全に沈黙した。虚ろな目でぼんやりしているだけだ。あんな光景は見たことがない。
忠告しておくが、もし被影響者に近付くことがあれば、目を合わせるな。その時になれば分かる。
サルバドール・アドリエッティ
MTF L-45 “タスクマスターズ”
補遺186.6
SCP-186-Aの発見
SCP-186-Aは1988年にハンガリーの町、ティサヴァールの廃倉庫で発見されました。発見当時、ティサヴァールの人口はおよそ3,500人で、そのうち約半数が倉庫の5km圏内に居住していました。財団は地域当局への匿名の電話通報1を傍受した後、SCP-186-Aが起動したことを知りました。
現地からは箱詰めされた書類や日誌のほか、1本の鎖も回収されました。この鎖は元々SCP-186-Aに巻き付けられていたものの、起動の直前に切断されたように見受けられます。鎖には_“SCP財団怪奇部門”_と記された金属タグが付属していました。
補遺186.7
回収された書類の概要
以下はSCP-186-Aの発見地点から回収された書類や日誌からの抜粋です。これらの文書の大多数がジャン・デュラン博士によって執筆されたものと特定されています。
無名の解剖学者にして野戦外科医、人体を破壊し修復するものの探求者、ジャン・デュランが著す。この日誌は、第一に私自身の観察を整理するため、第二に後世の人々が風評に惑わされることなく私の手法と動機を評価できるように、記すものである。己が重要人物であるなどと主張するつもりはない - しかし、この研究に重大な意義を帯びるならば、私の手による明確な記録が残されるべきであろう。
何年も経つが、塹壕は一向に私への語りかけを止めようとしない。口中に泥を感じながら目覚め、かつて治療した兵士たちの名前が帳簿を捲るように目の奥で駆け巡る。何ヶ月もの間、私はその帳簿を有用なものに変えようと試みてきた。今回は薬ではなく、予防策として。もしたった一つの絡繰りで片方の陣営を無敵に変え、どんな将軍も突撃など命じないようにできたならば、もし全世界の人々がその恐るべき力と、それを呼び起こし振るう力を持つ者たちのことを正確に知り得たならば、我々は確信の力を以て戦争を廃れさせることが可能ではないか?
かつて私はそう信じていた。より優れた暴力が - 絶対的で、脅威的で、究極的な暴力装置こそが - 治療薬だと思い込んでいた。あらゆる戦争に勝利できる物を作れば、後のことは自ずから続く - 条約が締結され、軍隊が廃れて用済みとなり、子供たちが石油と鉄の味を知ることはなくなるのだと、私は己にそう言い聞かせた。その点で、私とあのネメシュという男の間には共通の絆があった。
私は延々と図面を引き、紫煙の立ち込める部屋で議論し、口を開けば地図と勝利のことばかり宣う男たちに耳を傾けている。彼らの言葉には麻薬めいた安らぎが伴う。統計、兵站、射程距離。私が目を閉じる時、そこに射程距離など見えてはこない。見えるのは幾つもの顔だ。彼らにはまだ打ち明けていない。
かつて我々が追求した算術には欠落がある。ネメシュは恐らくその本質を見抜けずにいただろうが、1917年にそれを私に示してくれた。我々の示威行動に大きく欠けていた要素、今こそ私は確信している、それは理解だ。我々が浴びせた砲火の下で萎れていった兵士たちではなく、高く聳える城砦に籠って遥か遠方から軍隊を動かす者たちの理解だ。彼らに戦争という悪夢を悟らせなければ、その終焉を見届ける望みがどこにあるというのか。
一先ずは、解剖学を知る男が着手すべきところから着手しよう - 物質と意志、双方の力の限界を研究することから。
今回は集計帳も図面もなく、ただ目を背けまいという思いだけを携えて、再び戦場を歩いた。墓は政府と違って正直だ。畝に半分埋もれている錆びたヘルメットは婉曲表現を拒む。私が真に抑止力たり得るものを思い描こうとした時、別種の残酷さが姿を現した。大量殺戮の残酷さではなく、人々にその光景への免疫を生じさせる残酷さだ。人民が虐殺を抽象的な概念として - 報告書の上の数字として - 容認するようになってしまえば、どれほど絶対的な兵器も虐殺を防ぐことなどできない。殲滅への恐怖は、抽象的で遠く隔たっているからこそ、手段として強力なのだ。間近に迫れば、悲嘆は道徳的な拒否権ではなく、対処すべき政治問題に変わる。
新たな殺戮の手段を発明する代わりに、抽象化を阻む形で殺戮を否定不能にすることはできないだろうか? 言葉や写真ではなく - それらは必ず議論に組み込まれる - 体験そのものを逃れようのない形で精神に刻み込むのだ。私の頭からは、何が奪われているかを知らぬままに国民が眠り続ける中、命を勘定し続ける指導者のイメージが離れない。それを防ぐには緩衝材を、戦争の悲惨さは他人事に過ぎないという大嘘を排除しなければならない。全ての人間を証人として、否定を不可能にしなければならない。
この発想はどんな破滅の図式よりも私を震え上がらせる。怪物じみた野望だ。それは戦場を拭い去るのではなく、意識の中に戦場を織り込むものだ。果たしてそれが救済なのか、新種の暴力なのか、私にはまだ分からない。今これを書き留めるのは、メカニズムを考案するためではなく、己がこのような考えを抱いているという事実を認め、正直に向き合わねばならないからだ。共感を強いる闇深き扉がそこにある。その扉の枠組みを、己の手で感じている。
全ての砕けた身体、全ての滴る血、全ての見開かれた目と大きく開いて叫ぶ口を数えてきた。人類の大いなる苦しみを集計してきた。私は己が生み出そうとしている強制力の重圧を知っている - 焼け付くような痛みを余すところなく感じている。全世界に記憶を押し付けるというのは、確かに新たな恐怖を生むことになるだろう。狂気、麻痺、生命そのものを締め上げるほどに緻密な地球大の悲嘆の糸玉。私はそれをもう一つの選択肢と比較する。終わりのない徴兵の季節、二度と帰らぬ息子のベッドに伏して泣く無数の母親。擂り潰され、墓とも呼べぬ穴の中で肉塊と化して爛れてゆく女たち、子供たち。人間をがらんどうの目を持つ穴だらけのものに変えてゆく腐肉漁りの鳥たち。恐怖を超越する恐怖、そしてそれ以上のもの。
私は世界の集会、誓約、守護者たちを想像してきた。法に、市政に、儀式に基づく独占防止の安全策を考えてきた。私はかつて誰もが最終兵器を握っている世界を夢見た。人々がその兵器を理詰めで時代遅れに追い込むか、無意味であると決めつけて、新しく虐殺の場を見つけ出すことを、今や私は知っている。やがて彼らは完璧な兵器の存在そのものを忘却し、従来の恐怖に敢えて目を瞑ろうとするのだろう。こうして私は同じ暗黒の仮説に立ち戻る。戦争を終わらせるには、人々から目を逸らす力を奪わねばならない。
私は、塹壕の中で顔も知らぬ人々に最後の謝罪を囁いた兵士たちを思い浮かべ、その親密さが外に広がれば戦争は実行不可能になるのではないかと考える。
装置は完成した。それは本来の意味でのエンジンにはあたらない - 砲身も砲弾も備わっていない - しかし、エンジンに変わりはない。この装置は殺さない - 殺しはあまりに凡庸で、それではこの装置も単なる洗練された銃に過ぎなくなるだろう。違う、これは理解を強いるのだ。ひとたび起動すれば、戦争で失われた全ての命の最期の瞬間を - 引き裂かれたあらゆる息遣いを、助けを求めるあらゆる盲人を、無関心な殺戮の軋りに呑み込まれたあらゆる断末魔の嘆願を - 捉え、終わりのない証言の流れへと編み上げる。写真ともニュース映画とも違う、それらはいとも簡単に虚構化される。彼らが見るのは、距離を削ぎ落とされ、心の床板の上に剥き出しにされる現実なのだ。遥か彼方の戦線からの空虚な戦況報告はなくなる。将軍の戦果記録に並ぶ赤い線もなくなる。世界はその脳裏に塹壕を抱え込み、塹壕が空になる日は決して訪れない。
彼らはまさしく筆舌に尽くしがたい光景を目の当たりにするだろう。それは書物の中で語られるような恐怖ではなく、頁を捲って悪夢から目を背けることはできない。精神の中のあらゆる隔壁は押し流される。見知らぬ者の最後の鼓動が自らのものとなり、腐った土と焼けた鉄の臭いが窒息するまで肺を満たし、絶望する未亡人の泣き声が目の奥で針金のように張り詰める。そして消えない。朝食の時も、祈りの時も、眠りに就く前の静寂の中でも付き従う伴侶となる。自分はただの目撃者に過ぎないという気休めはもう通用しない。それが続く限り、彼らは死にゆく者なのだ - そしてそれは永遠に続く。
これは思いやりの強制だ。私は彼らに全ての戦争を見せつけ、それによって全ての戦争を終わらせよう。
アンセル、
筆跡の震えをご容赦ください。語るべきことが山のようにありながら、時間は限られています。
私は、君が恐れていた通りのことを実行に移しました。
私が世界のために構築したこの装置 - これこそ私が思い描いた治療薬です。心から、一抹の疑念も抱かず、ここに宣言します - この装置は戦争という苦しみに終止符を打つでしょう。これは純粋です。完璧です。絶対です。
それでも尚 - ここに赤裸々な恥を明かします。私にはどうしても最後の回路を開く決心がつきませんでした。自ら整えてきた流れに全身全霊を委ねることができないのです。深淵を知るには十分な、しかしそこに身を沈めるには足りない程度の断片を、これまで己の心に注いできました。スイッチに近付くたびに脈拍の乱れを感じます。ただの警戒心だ、一過性の不安だと、己にそう言い聞かせてきました。墜落前の一瞬の猶予に過ぎないと。真実はもっと単純です。私は恐れています。自分で作り出したものを、他者に強要できると思っていた戦争の中に身を置くのを恐れています。きっと、これでもまだ戦争は終わらないのではないかという恐れもあるでしょう。
かつて私を勇敢だと評しましたね、アンセル。違います。私は勇敢ではない。私は知識を治療法と勘違いし、自ら調合した薬を前にして震えている一介の解剖学者でしかありません。私は、この薬を投与すべきか否かを決めることなどできない。自ら創造したものの影の下で生きることができない。世界の瞼をこじ開けて恐怖を見届けさせる気概など、私には無かったのです。
だから、君に託します。装置はこれから君の物です。メカニズムは封印してありますが簡単に起動できます。説明書はこの手紙に同封してあります。私と同じものを見届けながらも決して絶望に膝を屈しなかった君ならば、私が失った明晰な心を未だ持ち得ているかもしれません。もしこれを怪物と断じるならば、破壊してください。もし必要な恐怖だと考えるならば - 神よ我々を許し給え - その働きを成させなさい。君が選択を迫られる日が来ないことを願います。
君がこれを読む頃には、もう私はいないでしょう。臆病者らしいやり方で、或いは真っ当な形でこの世を去っているはずです。私にはもうその二つの違いも分からなくなりました。私の人生は縫合できなかった傷の帳簿です。もしかしたら、私がいなくなれば、却って君が私の幻想を受け継ぐのを防げるのかもしれません。或いは無意味な喪失の記録に名前が一つ増えるだけでしょうか。いずれにせよ、これが私にとって最後の支配行為です。
もし、僅かばかりでも今世紀に恩寵が残されているのならば、それが私の手を導いた以上に、君の手をより良く導いてくださいますように。